海外便り(2026年10月)大山彩子
英国多文化コミュニティ政策交流プログラムに参加して
英国在住の大山です。2026年9月21日から26日まで、一般財団法人自治体国際化協会(クレア)ロンドン事務所主催の「英国多文化コミュニティ政策交流プログラム」に参加しました。
日本からは、政府、自治体、国際交流協会、難民支援団体など、さまざまな立場から多文化共生に関わる方々が参加しました。プログラムでは、政府や自治体のほか、研究・教育・医療機関、地域で活動する支援団体を訪問し、多文化コミュニティをめぐる政策や現場の取組みについて話を聞きました。
今年で4年目を迎えたこのプログラムから、訪問先との調整をはじめ、準備に注がれたクレアロンドン事務所の皆さんの努力と、毎年重ねられてきた工夫が伝わってきました。そうした積み重ねは交流の場にも表れており、英国側のスピーカーとのやり取りに加え、参加者同士が訪問先で見聞きしたことを共有し、それぞれの経験や立場から意見を交わす場面も多くありました。
こうした交流の中で、特に印象に残った二点について振り返ってみたいと思います。一つは、ロンドン・イズリントン区での訪問を通じて考えた、長い時間軸での地域づくりです。もう一つは、現場に共通する課題を日英の実践者たちで共有できたことです。
Borough of Sanctuaryの認定から考えた地域づくり
イズリントン区は、ロンドン中心部の北側に位置し、2025年時点で約22万5千人が暮らす区です。住民の約40%が英国外で生まれ、約19%は英語以外の言語を主な言語としています。区の資料は、移住の歴史が1700年代にさかのぼると紹介し、ジャガイモ飢饉の時期に支援を受けたアイルランド人、仕事を求めて来たイタリア人やインド人、ロンドン各地に定住した中国人、第二次世界大戦後の英国再建のために招かれた西インド諸島出身者などを挙げています。また、ソマリアやスーダンの内戦から逃れてきた人々への支援に加え、現在はウクライナやアフガニスタン出身者、庇護申請者、ガザから医療搬送された子どもたちも支援しています(出典:イズリントン区提供資料『Information Pack for Japanese Visit 2026』)。

区には、在留資格や滞在状況により一般の公的給付を利用できない状態(NRPF: No Recourse to Public Funds)にある人や、難民、庇護申請者、ウクライナやアフガニスタンから来た人々などを支援する専門チームがあり、住宅、教育、就労、医療などの部署や地域団体と連携しています。イズリントン区の特徴の一つは、2006年に設立された全国的なNRPF Networkの運営拠点となっていることです。同ネットワークは、自治体職員向けの実務情報や指針を提供し、相談ケースを管理する仕組みやデータを通じて自治体の実務を支えるとともに、各地の知見を共有し、国の政策にも働きかけています(出典:イズリントン区提供資料『Information Pack for Japanese Visit 2026』、『NRPF, Migrant and Refugee Team Structure 2026』)。
区の担当職員からは、難民・移民・庇護申請者への支援と、Borough of Sanctuary(難民・移民・庇護申請者を歓迎し支える自治体)という認定について説明を受けました。この認定は、英国の慈善団体City of Sanctuary UKが行っています。参加者からこの認定について質問があり、「認定によって追加の財源が得られるわけではない」という説明を聞きましたが、説明を担当された方々が認定を誇りにしている様子が印象に残り、その意味を改めて考えました。
この認定では、自治体が歓迎の理念を掲げるだけでなく、庇護を求める人々について学び、その理念を行政の仕事に取り入れ、地域団体などと連携しながら実践や学びを共有しているかが評価されます(City of Sanctuary UK, 2021)。イズリントン区は2021年に、区の仕事にsanctuaryの理念を取り入れていく方針を議会で決議しました。区は2023年後半の審査を経て認定され、City of Sanctuary UKは2024年2月に認定を発表し、祝賀行事を行いました(Islington Council, n.d.; City of Sanctuary UK, 2024)。認定期間は3年間で、期間終了時に見直しが行われ、更新には新たな申請が必要です(City of Sanctuary UK, 2021)。認定後も、難民や庇護を求める人々について学び、理念を行政の仕事に組み込み、実践を地域社会と共有し続けることが必要となります。そう考えると、この認定は、「私たちは、どのような地域社会を目指すのか」という方向性を、自治体職員、地域団体、当事者、住民の間で確認し続けるための仕組みなのではないかと思いました。
こうした考えは、別の質疑応答ともつながりました。日本側から、難民や庇護申請者への支援について、住民の同意をどのように得ているのかという質問がありました。回答では、支援方針を掲げて選挙で選ばれた議員や区議会のリーダーの方針を行政が実行しているため、個々の取組みごとに住民の同意を得るという考え方ではない、という趣旨の説明がありました。私は、そうした民主主義の仕組みに加え、日々の学びや発信を通じて育まれてきた共通理解も、職員の判断や実践を支える土台になっているのではないかと感じました。目の前の支援を進めながら、目指す地域社会の方向性を共有し続けること、そして長い時間軸で地域社会をつくっていくことの大切さを学びました。
日英の現場に共通する課題を共有する
本プログラムの意義として特に印象に残ったのは、英国の取組みを学ぶだけでなく、日英に共通する課題について意見を交わせたことです。共通課題として感じられた二つの点を振り返りたいと思います。
一つ目は、国の移民政策と地域での実践との関係です。英国でも、労働力不足を抱える一方で、国の政策は移民数を減らす方向に向かっています。この状況について、英国側の複数のスピーカーから、移民の受入れ数をめぐる政策と、統合(integration)や地域社会の結束(cohesion)に向けた取組みは、分けて考えているという説明がありました。受入れ数をめぐる国の政策が変わっても、地域で共に暮らす人々の生活や関係を支える仕事は続く、という現場の姿勢が伝わってきました。また、英国側の研究者からは、今後の国の政策の方向性は読めない、という話もありました。地域での取組みが続く中でも、国の政策をめぐる不確実性は大きいことがうかがえました。
二つ目は、反移民感情やヘイト、偽情報への対応です。訪問先では、平等を重んじ、差別やヘイトを許さないという職員や支援者の明確な姿勢を感じました。参加した皆さんの間でも共有された感想です。ただ、そうした姿勢があっても、すぐに状況を変える決め手となる解決策があるわけではありません。質疑応答では、誤情報を訂正する発信はなかなか広がらないことや、偽情報に対して声を発せない、発しないことを選んでいる団体もあることが率直に語られました。また、現場で働く人々の安全を優先して、イベントを延期せざるを得なかった事例も共有されました。正確な情報を地道に発信していくことが、現時点での対応の一つと考えられていることも語られました。
英国側も、日本の状況や対応に関心を寄せていました。日本側から現状を説明する機会もあり、それぞれの現場が抱える課題や試行錯誤を共有する、双方向の意見交換となりました。参加者からの質問によって、用意された説明だけでは見えにくい現場の考え方や悩みが共有されました。そして日英双方が互いの状況に問いを投げかけ、共通する課題を具体的に考えられたことに、本プログラムの意義を感じました。
プログラム最終日には「毎年、所属機関から職員をこのプログラムに参加させたい」という声も複数聞かれました。実務に携わる皆さんにとって、日々の仕事を振り返り、新しい視点を得る機会となったことがうかがえました。私自身も、制度や取組みを知ることに加え、それらを支える人々の姿勢や、質疑応答を通じて生まれた問いが心に残っています。
City of Sanctuary UK (2021) Council of Sanctuary Award: Minimum Criteria. Available at: https://cdn-e2wra3va3xhgzx.cityofsanctuary.org/uploads/sites/166/2021/08/Council-of-Sanctuary-Award-Minimum-Criteria.pdf (Accessed: 11 October 2026).
City of Sanctuary UK (2024) ‘Islington is a Borough of Sanctuary’, 12 February. Available at: https://cityofsanctuary.org/2024/02/12/islington-is-a-borough-of-sanctuary/ (Accessed: 11 October 2026).
Islington Council (n.d.) ‘Islington as a Borough of Sanctuary’. Available at: https://www.islington.gov.uk/advice/islington-welcomes/borough-of-sanctuary (Accessed: 11 October 2026).
著者プロフィール:
大山彩子
多文化社会研究会理事、お茶の水女子大学大学院修士課程修了(社会科学)後、アングリア・ラスキン大学にて社会政策および国際福祉を学び、Ph.D. を取得。英国在住22年。
英国の統合政策を中心に、福祉・教育などの社会政策に関心を持ち、インタビュー調査を用いた研究に取り組んできた。課題の捉え方やアプローチ、現場での実践に注目し、日本との比較の視点から学びを深めている。