ⅹ)社会保障

外国人の「社会保障」と「身元保証」

阿部 治子
(自治体職員、日本図書館協会多文化サービス委員会副委員長)

●はじめに
 2018年12月に「改正出入国管理法」が成立したのを機に、外国人労働者の増加や滞在期間の長期化が見込まれる中、社会保障の給付と負担の公平化に向けて、国は社会保障関連法の改正を目指している。
 また、社会保障の担い手としての外国人を確保するには、就労に制限のない在留資格を持つ外国人が増えることが必要だが、合理性を欠く前近代的な身元保証人制度が、安定した在留資格の取得を難しくさせている。
 そこで、現在の「社会保障」と「身元保証」の制度に触れた上で、問題を提起したい。
●社会保障の拡大と国籍要件の撤廃
 現在の社会保障制度は、戦後の復興期を経て、高度成長期であった1960~70年代に骨格が築かれた。1950 年代は「生活保護」が社会保障の大きな柱とされていたが、1961年にすべての国民が公的な医療保険制度や年金制度に加入する「国民皆保険・皆年金」が実現し、高齢者福祉や障害者福祉、児童福祉に関する制度が整備され、社会保障制度の充実・拡大が図られた。
 1981 年には「難民の地位に関する条約」の批准に伴い、「内外人平等待遇の原則」に基づき国内法令が整備され、社会保障制度の国籍要件が一部を除き撤廃された。
●生活保護法が適用されない外国人
 現在、社会保障制度の中で国籍が問題になるのは、生活保護のみである。生活保護制度の根源である憲法第25条が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定しているため、外国人に対して生活保護法を適用することはできないとされている。
 しかしながら、国際道義上、人道上の観点から、生活保護の実施機関である自治体が、一定の要件を満たす外国人に対して生活保護法を準用することが認められている。
 だが、その場合の措置について、国は責任を負わず、生活保護の実施機関である自治体が責任を負わなければならない。
●個人犠牲型の身元保証人制度
 会社・企業が従業員を雇用する際に、その従業員に身元保証人を求める場合があるが、この身元保証人の責任の範囲などを定めているものとして身元保証に関する法律がある。この法律では、身元保証人の期間を最長5 年と定め、身元保証人による将来に向けての解除権を認めている。
 一方、出入国管理及び難民認定法における身元保証人とは、「外国人が我が国において安定的に、かつ、継続的に所期の入国目的を達成できるように、必要に応じて当該外国人の経済的保証及び法令の遵守等の生活指導を行う旨を法務大臣に約束する人」を意味し、日本人または永住権を有する外国人しか身元保証人にはなれない。
 また、身元保証人の責任は、当該外国人の「滞在費」「帰国旅費」「法令の遵守」とされているが、保証人の期間や経済的保証の限度額に関する定めはなく、しかも身元保証人を途中でやめることは原則認められていない。
●おわりに
 日本社会を支える外国人が、人間らしく安心して幸せに暮らすためには、将来、事故や病気、失敗などが起きたときの支えとなる社会保障の適用や、安定した在留資格の取得が欠かせない。
 国策として外国人労働者の受け入れを拡大し、持続的にその恩恵を受けたいと考えるのであれば、外国人に対するセーフティーネット等の自治体への押し付けや、個人の善意にタダ乗りして犠牲を強いる身元保証人制度を、根本から見直すことが必要ではないだろうか。

<著者略歴>
自治体職員として図書館や生活保護、多文化共生などに携わる。公益社団法人「日本図書館協会」多文化サービス
委員会副委員長、「むすびめの会」(図書館と多様な文化・言語的背景をもつ人々をむすぶ会)事務局。

(多文化社会研究会「30周年記念誌」より転載)

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