(第29回) 「共創」による「変革」
SDGs「行動の10年」における
大学の役割
<『都政新報』2020年10月23日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(大阪大学大学院国際公共政策研究科特任准教授 佐伯康考)
近年の世界は自国第一主義や移民排斥など、自分たちと異なるものを排除しようとする利己的な風潮が蔓延しており、コロナウイルスという国境を超える社会課題の影響によって、国際的な人の移動や多文化共創がさらに後退する恐れも生じている。しかし、自己や自国の利益を競って主張した先にどのような社会を実現したいのか、その未来図は十分に描かれていない。自らと異なるものとの交流から発生する摩擦やあつれきを「対立」ではなく「原動力」として、新しい価値を生み出すための知恵を生み出すことが、大学の担うべき使命であると私は信じている。
特に、2020年からは「2030アジェンダ(SDGs:持続可能な開発目標)」の実現に向けた「Decade of Action(行動の10年)」が始まり、世界各国の地域社会におけるSDGs達成に向けたアクション(SDGsローカリゼーション)が喫緊の課題となっている。日本の全国各地においても変革のためのアクションが必要とされる中、SDGsローカリゼーションを模索する自治体からは学生・留学生たちとの交流を通じた地域社会の国際化が必要とする声を聞くことも少なくない。

「行動の10年(Decade of Action)」がスタート
こうした中で大学は科学技術及びイノベーションを通じたSDGsの推進による未来共生型社会の構築に向けて自治体関係者たちと連携し、留学生を含む学生たち、そして企業や市民団体をも巻き込むかたちでの共創コーディネートが求められている。また高等教育の枠を超えて、初等・中等教育とも連携しSDGs・ESDを基軸とした社会課題解決型教育の充実に向けたリーダーシップを発揮することは社会から大学への重要な要請と言えよう。
そうした中で、筆者が勤務する大阪大学では「OUビジョン2021–社会変革に貢献する世界屈指のイノベーティブな大学へ–」において、共創イノベーションを牽引する「社会の中の大学、社会のための大学」こそが大阪大学の考える次世代の大学モデル「University 4.0」であると西尾章治郎総長によるビジョン提示が行われた。
大学の社会における使命は中世、近代、現代と時代の変化とともに変容してきた。そして気候変動や感染症など、地球規模で複雑化する社会課題の解決が求められる大学の未来には、従来にはない革新的アプローチを生み出すための共創イノベーションが必要不可欠となっているのである。
このように大学が社会において果たすべき役割の重要性が増す一方、日本の大学経営が大変厳しい状況に置かれていることも事実である。文部科学省(2018)によれば、国立大学法人運営費交付金予算は国立大学が法人化された2004年度の1兆2415億円から2018年度には1兆971億円まで約1445億円もの減額が行われている。

大学が持続可能なかたちで社会に対して貢献していくためには従来とは異なる新しい取り組み・イノベーションが必要不可欠となっている。イノベーションを「発明」したと称されるピーター・ドラッカーは、イノベーションには「発想転換」が必要不可欠であると喝破した。この「発想転換」こそが、社会課題が複雑化する中で多様な背景を持つアクターによる共創が必要とされる理由であると私は考える。
自分とは異なる他者との共創によって、従来の常識の枠を意識的に外せばイノベーションに必要な「発想転換」は生まれやすくなる。産官学民による共創の意義は、まさにそこにある。日本の大学を取り巻く現在の困難な状況を打開するためにも、多様性から新たなイノベーションを生み出すハブとしての役割を担い、共創イノベーションを通じて大学の持続可能な発展を実現するという新たなモデルへの「変革」と「行動」が必要とされているのではないだろうか。
なお、本稿で示した見解は筆者個人のもので、筆者の所属する組織としての見解を示すものではない。
(大阪大学大学院国際公共政策研究科特任准教授 佐伯康考)