多文化社会研究会
会員のみなさま
6月5日、飯田橋・東京ボランティアセンター(通称:ぼらせん)におきまして、多文化共創フォーラム『イタリアの選択について考える〜ベネチアにおける移民の現状を踏まえて』を開催致しました。
直前まで、『ドイツに学ぶ「サステナビリティ」と移民』というテーマで、ドイツ学術交流会のマルクス・ヘッケル氏を講師にお招きし、長谷川理事のイタリア報告と併列する予定だったのですが、ヘッケル氏の急病のために講演が叶わなくなり、急遽テーマを長谷川礼理事(大東文化大経営学部教授)のイタリア視察報告のみに変更しました。
“ぼらせん”には、初参加の方2名も含め、11名の参加者が集まり、18時から2時間あまりの報告と討議を行なって、最後には白熱した議論が交わされました。
フォーラムは、川村千鶴子理事長の開会の挨拶から始まり、伊藤寛了理事(帝京大学准教授)の司会で進みました。
報告者は長谷川礼理事で、このテーマのフィールドワークとして5週間ベネチアに滞在し、ベネチア国際大学などの研究者とともに、移民とベネチアとの関わりについて、インタビューを含むさまざまな調査を行っています。
報告では、OECDがリリースした移民と社会に関係する統計など、ヨーロッパ諸国の移民政策に関係する動向・傾向が解説されました。
イタリアはアドリア海をはさんで、バルカン半島に面しており、古くからスラブ民族の流入があって(すでに多くの定着者がいます。インテルミラノのレギュラーは半数がスラブ名の選手です)、ごく最近まで中東からの移民の割合は高くなかったそうですが、長谷川理事の報告では、3年ほど前からバングラデシュからの流入者が急増している事実が、具体的な数字で示されました。
ベネチアでは既に、階層が分かれたバングラデシュ移民が、それぞれ地域を棲み分けている現状が伺え、観光地としてのベネチアで、盛んに商取引を行なっている様子が、長谷川理事が直接撮影した映像で示されました。
また、5週間というスパンの長いフィールドワークだったことで、移民が実際に現場で働いている様子や、移民には参画が許されていない行政分野(郵便配達や廃棄物収集・処理など)があることも、インタビューだけでなく具体的に観察され、写真と共に報告されました。
トルコ研究の専門家で、ヨーロッパの移民・難民政策の領域にも深い知見を持つ伊藤寛了理事からは、「移民の中にも正規の滞在許可を取得した人と、行政から滞在申請を拒否された人がいるはずで、見かけは変わらず普通に生活し、混在している。その区別は外観からだけでは、つきにくい。それらの実際の割合を調べることで、イタリア政府の移民政策と現状をあぶり出すことができるのでは」という提案が出されました。
この研究領域は、いまも”生きもの”のように、世界各国で(もちろん日本でも)変化し続けています。
ヘッケル氏の再招聘も含めて、引き続き多文化共創フォーラムの場で、テーマとして話し合いを持ちましょう、と言葉を交わして閉会しました。
次回の多文化共創フォーラムは、6月29日(日)14:00~17:00の予定で、「AIと多文化共創」をテーマに、今回と同じ会場『飯田橋・東京ボランティアセンター』にて開催されます。
講師には、大橋祥宏氏(元財団法人・日本出版クラブ専務理事)をお招きします。
多文化研メディア班
増田隆一 拝
