2025年1月26日多文化研フォーラム 「多文化共創社会に向けた外国人支援・相談の現状と課題」の振り返り

多文化社会研究会のみなさま

先日(1月26日)に行われた研究フォーラムの報告を当日に総合司会をしていただいた野崎与志子(学習院大学教授)さんから頂きました。とても充実的な会となりましたので、参加できなかった方もぜひご一読いただければと存じます。

次回の研究会は2025年2月23日(日)13時〜16時「多文化共創とメディアの役割」です。詳しくはこちらをご覧ください。

2025年1月26日多文化研フォーラム 

「多文化共創社会に向けた外国人支援・相談の現状と課題」の振り返り

今回のフォーラムの趣旨は以下のようなものであった。

「海外(特にアジアの各地)から移住してきた外国籍の人々が、日本社会で雇用され仕事を継続し生活していく上で、就職サポートや生活上の困りごと相談の必要性や重要性が高まっている。在留資格等の相談については行政書士が対処することが多く、その他の相談(医療や労働、子どもの教育などの生活相談)については、NPOの組織の職員やボランティアが対処していることが多い。今回のフォーラムでは、外国人向けのサービスや相談に応じる現場にいる専門家・実践家の話を聴き、また多文化研の外国人メンバーに自分の経験を語ってもらうことを通して、日本社会が多様性に対応していくためにどのような課題があるのかを探る。」

1番目の講師はダニエーレ・レスタ(慶應義塾大学非常勤講師)にお願いし、「レスタ先生に聞いてみよう! 外国人として日本に生きること:どんなことに困ったの?どんなサービスがあるとよかったの?」というタイトルでレスタ先生の日本滞在初期の経験に基づいてクイズ形式でお話をうかがう予定であったが、体調不良のため欠席となり、司会の野崎与志子がレスタ先生と作成したクイズを行った。ただし、回答は保留で、レスタ先生が回復されたら行うということにした。

2番目の講師は、Asian People’s Friendship Society(APFS)代表の吉田まゆみ氏による「APFSの相談事業:実践と課題」というタイトルでの講演であった。APFSは板橋区にある特定非営利活動法人で1987年発足し現在では20カ国以上約四千人のメンバーを要する組織となっている( http://apfs.jp/outline 参照)。

APFSは移民の正規・非正規を問わず、在留資格や生活(結婚・離婚、教育、医療など)に関する相談を受け付けている。また、非正規滞在家族・子どもたちの支援としてTBSテレビの Nスタ 調査報道で取り上げられたこともある(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/186292?display=1&fbclid=IwAR0X8oi8pu_YeZEJViu1QBHacVtzWP8cU5-5YqZkYikUY4_lTG252Ne1mFg)。

実例として、非正規滞在のフィリピン人シングルマザーに対して、国籍の取得、出入国在留管理局への出頭支援・同行、食料支援、子どもたちの学校との連絡(在留資格取得の進捗、進学など)、学費・交通費の支援を行ったケース、非正規滞在のネパール人妊婦に対して、住居探し、出入国在留管理局への出頭支援・同行、入院助産に使える病院探し・調整、難民申請支援などの支援を行ったケースが紹介された。保険証がない場合の医療費については、150%〜300%の支払いになることがあるという事実には特に驚いた。

3番目の講師は、大房行政書士法人代表の大房明良氏で、「行政書士の仕事から見えてくる日本の外国人労働者受け入れの課題」というタイトルでお話いただいた。大房行政書士法人は2016年設立で、在留資格申請等の入管業務全般、外国人採用・雇用支援、登録支援機関サポート業務に特化した行政書士事務所である( https://gyosei-cambo.com/参照)。

大房氏は世界各地を訪問し、カンボジアには5年在住したという経験を日本に帰国後に生かせる仕事として、行政書士となった。外国人採用・雇用支援および登録支援機関サポート業務についての話の中で、「事前ガイダンス」「生活オリエンテーション」「相談・苦情への対応」というような業務の内容を具体的に話していただき、あまり知られていないことも多く参考になった。毎日の「相談・苦情」の件数がかなり多いということにも驚いた。行政書士から見た外国人労働者受け入れの課題として、「技能実習生の前職要件」「特定技能の厳格な受入要件」「単純作業と専門的で高度な作業の曖昧な線引き」「マスコミの報道姿勢やSNSでの偏った情報」「日本人の潜在的に持つ東南アジアの方々への偏見」という課題があることを指摘し、非常に明快で的確な説明をしていただけた。最後のまとめとして「一定数の不良外国人は存在するが、外国人労働者の多くは善良」であるのであるから「是々非々での対応」を試みるべきである、という言葉が印象に残った。

講演の後、多文化研メンバーの大野勝也氏の司会で、活発なディスカッションとなった。質問も多岐にわたり、具体的なものも多く、現場で実務を行っている講師の方々から学ぶことが多かった。現在のようなSNSでデマが急激に広まってしまう社会で、現場での事実に基づいた情報や知識を広めていくために、多文化社会研究会がますます貢献できるようになると良いなと感じた。

総合司会:野崎与志子(学習院大学教授)

コメントを残す