親の母語の習得も大事に

(第3回)外国にルーツ持つ子ども

親の母語の習得も大事に

<『都政新報』2020年7月14日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban/

(特定非営利活動法人「みんなのおうち」代表理事 小林普子)

子育て支援のNPOを始めた動機は、新宿区で日本語が理解できず子どもに予防接種を受けさせられない外国人の親がいることと、子どもの基本的人権や命を守れない親がいることを知ったことだ。

この問題を解決するために、日本語指導の講座を受講。同時期に外国にルーツを持つ中学生がマンションの踊り場から幼児を突き落とす事件があった。どちらのケースも親は日本語が十分理解できない結果、発生した。

そこで2005年に文化庁の委嘱講座「託児付き親子の日本語講座」を大久保小学校の一室で開始した。


<みんなのおうちで学習するこどもたち>

外国にルーツを持つ子はどんな子か。関わる外国ルーツの子の母親は100%が外国人、多くはアジアの国々で中国、韓国、タイ、フィリピン、ミャンマー、マレーシア、カンボジア、ベトナム、ネパールなど。コロンビアやコンゴ出身の親もいる。しかし父親は日本人であったり母親と同国人であったり、日本人養父だったりと家庭環境は複雑である。国籍も日本国籍や親の国籍など、両親が外国籍なら日本で生まれ日本語しか話せなくても日本国籍ではないので、ビザ更新手続きをし続けなければならない。

07年にNPOと新宿区との協働事業として「外国にルーツを持つ子どもへの日本語と教科学習教室」を開始して現在に至る。教室を立ち上げた理由は、新宿区が提供する日本語初期指導だけでは日本語が不十分で学校の教科学習についていけないことに加え、日本語での高校受験も困難であるからだ。

家庭内言語は何語か

そうした外国にルーツをもつ子どもの家庭では、父親は日本語、母親は片言の日本語と母国の言語を使う。では、子どもは家庭内で何語を使うのか。日本で生まれ成長する場合、父親の力が強ければ日本語だけを使い、家庭内言語が日本語のみになる。すると十分な日本語を理解できない母親は会話についていけない。成長する子どもとの会話や意思の疎通が十分にできなくなる。場合によっては子どもから日本語のできない母親は馬鹿にされたり、うるさがられたりする。母子間にコミュニケーションギャップが生じる。特に思春期になるとこのギャップが親子関係を悪化させ
る。特に母子家庭などではなおさらだと思う。

学校や幼稚園、保育園の先生は親に家庭で日本語だけを使うように指導するケースが多い。もちろん日本語が上達するようにとの配慮からだろう。すると子どもは全く親の話す母語を理解できなくなる。完璧なバイリンガルに育てるのも困難だが、コミュニケーションが取れる程度に親の母語を理解できる子どもにすべきである。

日本語は言語の中でも習得が難しい言語と言われ、大人が日本語を獲得するのは容易ではない。新宿で関わっている外国ルーツの子どもの母親の多くはアジア出身者。仕事をしながらの子育てで、日本語を学ぶ機会がないまま片言の日本語になる。

外国人は英語を話す?

外国人の母親も滞在期間が長くなると会話も少しは日本語で可能になる。片言でも日本語を話す様子を見て、日本人は普通の速さ、語彙で彼女らと話をする。彼女らは理解できない日本語でも理解したような顔をせざるを得ない。例えば学校での三者面談に同席すると、担任の先生は親が日本語を少し話せると思うと、日本人の親に話すように面談を続ける。「分かりましたか」との問いに親はうなずく。面談後に親に理解したかを尋ねると、「話が早く全く理解できなかった」と話す。でも何か子どもについて注意されている印象だけは持つようで、親は不安に陥る。
 
日常生活の中で日本人から受け入れられていないと感じると同国人の狭いコミュニティーで暮らすようになり、その中でのうわさ話を真実と思い込む。

外国人に対する日本人のイメージは白人・欧米人で、外国人は英語を話すと思い込んでいる人がまだまだ多い。日本に暮らす多くの外国人は日系南米やアジア人で欧米人ではない。

外国人の名前をカタカナ表記する。しかし、外国人が最初に学習するのはひらがなで、形が簡略化したカタカナの学習はとても難しい。シとツ、コとユ、ウとワなどの区別は困難。我々でも片仮名で表記する言葉は少ない。外国人に分かりやすい日本語で伝える工夫が必要である。

(特定非営利活動法人「みんなのおうち」代表理事 小林普子)