(第25回) 海外事情・韓国
移住民社会の統合政策
<『都政新報』2020年10月9日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(熊本学園大学外国語学部東アジア学科教授 申明直)
韓国の滞在外国人は2019年末に250万人(人口の4・9%)を超えたが、今年に入って新型コロナウイルスにより少し減少した。滞在外国人が100万人を超えたのは07年8月。結婚移民者も00年代以降、着実に増加し、様々な社会問題が発生することになったが、これらの問題を事後に解決するよりも、事前に予防することが問題の解決にかかる莫大なコストを節約できるという意見が提起された。問題の予防のための「社会統合教育プログラム」の必要性が台頭し始めたのである。
韓国の社会統合プログラム(KIIP)は、外国人登録証を所持した在留外国人及び帰化者を対象に09年に実施された。具体的には、韓国語と韓国文化を0段階(15時間)から4段階(各100時間)まで最大415時間履修しなければならず、各教育段階は法務部の事前評価あるいは韓国語能力試験(TOPIK)の点数に基づいて割り当てられる。最後の5段階である「韓国社会の理解」は、永住者をはじめとする長期滞在の移民のための必須教育(基本50時間)と、帰化を目的とする移民に必要な教育(深化20時間)で構成されている。
プログラムは未成年、再定住難民など移民の種類に応じた分野別に弾力的に運営されている。ボランティア活動、現場見学のような社会活動も正規の教育課程として認められる。出産、就職などで教育機関へのアクセスが困難な移民のためのリアルタイム画像教育(中央拠点運営機関を通じた)も実施されている。中級コースに属する韓国語教育は、韓国語教育機関や多文化家族支援センターなどとの重複を避けるために、地域の大学や女性家族部の正規の韓国語教育などと連携する「連携プログラム」の履修課程も実施しているが、18年末、社会統合プログラムに参加した人は結婚移民1万7654人(34・8%)、一般移民3万2994人(65・2%)で、一般移民の履修者が結婚移民の履修者の約2倍に達する。
運営機関は民官ガバナンスの形で運営されている。09年に20カ所で始め、18年末には地域管轄拠点運営機関47カ所、一般運営機関262カ所など計309カ所に増えた。社会統合プログラムの講師(多文化社会専門家)は、移民者社会統合の主な拠点大学である全国20カ所のABT(Active Brain Tower)大学を通じて委託養成されている。
結婚移民者のための「早期適応プログラム」は09年「ハッピースタートプログラム」の時期から一貫して先輩結婚移民者とのコミュニケーションを強調している。プログラムは、感情的な共感を形成(1次時)、相互理解と配慮(2次時)、移民の意志と責任(3次時)で構成されており、まず1次時に行われる感情的な共感を形成するためのメンタリングに注目する必要がある。先輩結婚移民者をメンターに、新規結婚移民者をメンティーに設定し、同じ国の先輩結婚移民者が既に経験した文化の違い、コミュニケーションの断絶、家族間の葛藤などの問題解決のためのアドバイスを与えるプログラムである。メンターの先輩結婚移民者は、国内居住1年以上の者で韓国語と該当の外国語を一緒に駆使し、模範的な家庭生活を維持している者の中から選抜される。
2次時に該当する「相互理解と配慮」プログラムは、結婚移民者への一方的な教育時間ではなく、結婚移民者の夫や家族を対象とした結婚移民者の出身国の文化を紹介するプログラムで、これにより文化の違いを一緒に克服していくよう試みた。最後に「移民の意志と責任」を目標に設定した3次時は韓国社会に適応するための各種法制度、文化を理解するためのプログラムである。各次時の講師は先輩結婚移民者のメンター(1次時)、特別講師(2次時)、専門講師(3次時)で構成され、八つのABT大学を通じて養成された四つの地域別の総260人余りの講師は、13カ国の言語で韓国の法制度等を教育することが可能である。
結婚移民者のための統合プログラムは、前述の早期適応プログラム、国際結婚案内プログラムのほか、女性家族部が実施するプログラムも多数存在する。これは、全国217の地域に存在する多文化支援センターを介して行われており、地域社会の多文化家族を対象に家族相談や教育、韓国語教育などの訪問教育サービス、通訳・翻訳、子どもの教育支援などのサービスが提供されている。韓国における移住民社会統合政策が日本の移住民社会統合政策を作っていく過程で参考になればと思う。
(熊本学園大学外国語学部東アジア学科教授 申明直)
