日本人の多文化共生意識は

(第27回) 多文化共生

日本人の多文化共生意識は

<『都政新報』2020年10月16日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban

(明治学院大学社会学部社会福祉学科教授 明石留美子)

少子高齢化が進み生産年齢人口が縮小していく日本では、多くの労働を外国人に頼っていかなければならない現状がある。果たして日本人は外国にルーツをもつ人々と共生・協働していく意欲をもっているのだろうか。筆者がこの疑問を強く抱くようになった背景には、多民族国家での三つの事象がある。

一つ目は、世界が新型コロナウイルス感染症によるパンデミックと奮闘しているなかで確認されたシンガポールでの感染拡大である。同国は、1月に最初の感染者を確認してから感染拡大を抑制している国として高く評価されたが、4月以降、急速な感染拡大に直面することになった。3万人に上る感染者数の9割は密集した居住空間での集団生活を余儀なくされているブルーカラーの外国人労働者で、彼らが劣悪な環境に置かれている状況が浮き彫りになった。

二つ目は、コロナ禍の深刻化に伴い欧米で増加しているアジア系の人々に対する人種差別、ゼノフォビア(外国人嫌悪)、ヘイトスピーチ、身体への攻撃を含むヘイトクライムである。アメリカではアジア系の人々を標的にしたハラスメントに介入するスキルを身に付けるオンライン・トレーニングも繰り返し開催されている。筆者も参加したが、日本では感じることのないアジア系住民へのバッシングの深刻さを実感した一方で、アメリカ国内外で多くの人々が介入していく意志をもっていることに励まされる思いであった。

三つ目はコロナ禍と関連するものではないが、アメリカの「積極的格差是正措置(アファーマティブ・アクション)」の弊害である。これは、人種的マイノリティーに一定の機会を提供することで社会における機会均等を促進し、それによって公平な社会を実現することを目的とした政策である。しかし、特定の人種や民族を優遇することは、人種・民族間の差別の固定化につながるとの懸念がある。また、マイノリティーを優遇することは、優遇されないマジョリティーへの逆差別であるとも捉えられる。積極的格差是正措置によって、大学では合格定員の一部をマイノリティーに割り当てるクオータ制を導入しているところもある。そのため、アジア系アメリカ人の受験生が著しく増加していることから割り当て定員内での競争が激化し、優秀なアジア系学生が締め出されている状況がある。また、アジア系の学生には一層高い合格基準を課しているケースもある。

日本では、技能実習生、高度人材職の外国人、留学生などを含め、在留外国人人口が増加している。といっても、総人口1億2644万人(2018年10月)のわずか2・16%にすぎない。私たち日本人は、生活のあらゆる面で外国にルーツをもつ人々に均等の機会を提供し、公正な共生社会を築いていこうという意識をもっているのだろうか。

(筆者作成)

筆者は、大学の社会福祉学科1年生115人を対象に、共生社会への意識調査を実施した。グラフは外国にルーツをもつ人々と共生できるかについて、1(全くできない)から5(すべての面でできる)の5段階で回答した結果を示している。4と回答した学生が63人と最も多く、すべての面で共生できると回答した学生は16人であった。また、25人が中間の3を選択した。ほとんどできないと答えた者は3人であった。他の質問への回答を合わせた結果は、日本で暮らす外国人に日本人と同等の機会、自己実現の機会を提供することにちゅうちょする若者がいるという実態を示唆する。

日本人の多文化共生意識についての研究は多くはないが、大学生を対象とした調査では、「多文化共生」という言葉を聞いたことがなかったという回答もあれば、外国人を否定的に捉えている結果も示され、これからの日本を創っていく若者の多文化共生への意識を疑問に思う。今後、多文化共生社会を育んでいくためには、外国にルーツをもつ人々の文化や背景を理解し、いかなる人々にも均等な機会を保障できるような人権感覚を身に付け、共生意識をもった人材の育成に力を入れていくことが重要であると考える。

(明治学院大学社会学部社会福祉学科教授 明石留美子)