(第7回) 外国人妊産婦
支援におけるNew Normal
<『都政新報』2020年7月31日008面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(聖路加国際大学大学院看護学研究科 教授 五十嵐ゆかり)
私たちの日常は、ウィズコロナを意識した新しい生活様式(New Normal)への変革が求められている。外出自粛要請はリモートワークを促し、課題であった働き方改革の後押しになった。一方、これまで相手の表情や雰囲気も伝えた対面コミュニケーションは、文字や画面越しのオンラインへとシフトした結果、新たな問題が発生した。雑談も仕事仲間の笑顔もなく、人と人との触れ合いがなくなったことで「寂しさ」と「孤独感」が強くなり、「孤独ストレス」を訴える人が増加している。
このような状況は、私に外国人妊婦の病院での経験談を思い出させた。「外国語に翻訳された案内sチラシを渡されただけ。自分から頑張って話しかけても、言葉が分からないと迷惑がられる。自分がそこにいてもいなくても関係ない、そこに自分は存在していないみたい」。日本に在住する外国人が直面する疎外感や孤独感の根底にはコミュニケーション方法への違和感、人から隔絶されていく感覚がある。この課題の解決として、これまではその言語が分からないと避けてしまうよりも「まずは日本語で話しかけてみる」ことが外国人患者の安心につながると説明し、医療関係者向けに研修会を行い、教育ビデオを作成し、その効果を実感してきた。
しかし、New Normalではこれまで通りにはいかないだろう。マスクをつけ、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、これまで以上に文字や画面越しで人とコミュニケーションをとることが多くなる。このような状況下では、同じ言語を話す日本人同士であっても誤解なく伝えるためには多様な工夫が必要であると思う。コミュニケーションの方法の変化に伴う情報の新たな伝達方法の検討が必要になるだろう。

中国語、韓国語、ベトナム語、タガログ語、ポルトガル語、ネパール語、インドネシア語、英語、タイ語、ロシア語、フランス語、ドイツ語の12言語に翻訳
人との不要な接触を避けるためには、より「文字」の情報は重要になると思うが、「文字」による情報は内容を明確に伝えることが主目的であるため、どうしても無機質で一方的な説明の印象を与えてしまう。対面でのフォローが難しい今、受け手の視点や心情に寄り添い、孤独感や不安感を和らげることが期待される伝達方法を今こそ検討する機会である。例えば、外国人とのやりとりに不可欠な通訳機能は、人から機械へ、同席からオンライン上へとNew Normalに応じた配置が求められることは想像に難くない。同じ空気感を共有できないことで生じ出るデメリットを踏まえた多様な対応が支援の場においても求められるだろう。この間、外国人の支援は、これまで以上に多言語の「文字」情報に依存せざるを得ないことも多くなる。
このことは新たな問題を想起させる。これまで準備されたリソースは、自治体や民間団体のウェブサイトを通じた有益な文字情報が数多く掲載されており、支援者や看護職を通じて紹介されることが多かった。例えば、12言語に翻訳されたRASC(注)の「ママと赤ちゃんのサポートシリーズ」は、やさしい日本語との多言語併記であり、外国人にとっても日本人にとっても理解を促すリソースとしての活用が可能である。
しかし、どんなに確かな情報であっても、対象者が自ら検索して必要な情報にアクセスすることはまれなのである。オンライン等画面越しのケアを併用していくことも必要かもしれないが、まずは文字情報を前提にした新しい伝達方法と対象者が自らアクセスできるような手段の導入がNew Normalにおいて鍵となっていくだろう。文字情報が無機質でニュアンスが伝わりにくいことを前提として、その印象を補うコミュニケーション方法の工夫をすることが、支援におけるNew Normalにつながっていくのかもしれない。
まずは、どうすれば必要としている人々へ確実にアウトリーチができるか検討が急がれる。New Normalはすべてを一新するということではなく、これまでの積み重ねを下地に、対面ではなく、文字や画面越しにリーチアウトする見えない相手と同じ視点に立ち、支援実施を行う想像力が新たに期待されている。
(聖路加国際大学大学院看護学研究科 教授 五十嵐ゆかり)
注 RASC(ラスク)は多文化医療サービス研究会。筆者が代表を務める。