The UK government’s efforts to tackle extremism and other divisive activity in local communities

多文化研の皆様のご活動からいつも学ばせていただいております。私は、7月と10月に日本の地方自治体や国際交流協会の職員の方たちに「英国の統合政策について」と題したレクチャーを行うという機会をいただきまして、日本と比較した場合の英国の特徴や英国の多文化主義について勉強し、英国の経験から日本が学べることは何だろうか、ということを考えていました。また、職員の方々が英国政府を訪問する際には同行させていただくことができまして、政府が現在何について注目しているのかを学ぶことができました。
政府の方のお話の中で「差別に基づいた一つの事件が起きた後に、地域社会の分断にまで広がり、加害者が逮捕され刑が確定された後もその溝が埋まらない」「一度できた民族・宗教間の分断が埋まらず、ちょっとしたきっかけで何度でも社会の脅威として戻ってくる」という問題に取り組んでいることが紹介されました。現在、一つの事件がコミュニティに与える影響やその後当事者たちがどのような体験をしたか、起こった後どんなサポートが必要か、地方自治体の役割は、などについて研究チームを作って調査しているということでした。
差別に基づいた事件を起こさないようにすることも重要ですが、他の犯罪と同じように全て防ぐことは難しいですし、起こってしまった後にどうするか、ということに国レベルで取り組んでいることがわかりました。英国政府としてはその事件自体が社会で許されない犯罪であるのと同様に「事件の当事者やその家族が名前を変えて知らない土地に引っ越さなければいけなくなるくらい執拗に責めたり命の危険を感じるほどに脅す、という行為を英国社会で許してはいけないし、許されない行為なんだということを示したい」と強調されていたことが印象深く心に残りました。
現在もイスラエル-ハマス戦争に関して、英国内の親パレスチナの中の一部の過激な人たちが全ユダヤ人に対して差別的なことを言ったり、ロンドンで親パレスチナ・デモ行進を行っている人たちにヘイト的なことを叫んでいる人もいて、英国社会の中でも一部感情的な対立が起きていますので、そうした一部の人の過激な行為がネットで拡散され、暴力事件や集団的な暴動に発展してしまうことにならないようにすることが重要だと思います。
ヘイトスピーチや差別に基づいた犯罪が起こってしまった場合に、民族コミュニティ同士の衝突や社会の分断にまで広がらないよう、レジリエントなコミュニティ作りに向けて調査しているということですので、その調査結果が発表されたらまた学びたいと思っております。
大山彩子
お茶の水女子大学大学院修士(社会科学)、英国アングリアラスキン大学大学院 Ph.D.
英国在住18年。現在はOxfamで活動中。