【多読味読<52>:万城目正雄・川村千鶴子共編著『インタラクティブゼミナール 新しい多文化社会論 —共に拓く共創・協働の時代 —Interactive Seminar: Co-Creation through Multicultural Synergy』東海大学出版部2020年2月28日】

かつて日本は移民の送り出し国であった。戦前そうであったし、戦後もそうであった。私は大学時代に学生寮に住んでいたが、寮生の一人がブラジルに移民するというので送別会を開いたことを記憶している。昭和34年(1959年)のことであった。時代が進んで昨今は移民の受け入れ国になっている。それは少子化がもたらす労働力不足を背景としているが、やって来る人々はそれぞれ出身国の文化を身に着けてやって来る。日本は治安の良さや清潔さなど様々な長所を持つが、日本語や日本文化など外国人にとって習得や適応に障壁の高い要素も多く、島国としての地理的条件から同質化圧力の強い国でもある。
本書は異文化を抱えた人々を少数派として同化を迫ることはもちろん、移民をたんに支援の対象として見るスタンスももはや合理性を持たない時代、すなわち共創・協働を目指すべき時代となったことを各章それぞれの著者が自らの研究と実践を踏まえ、歴史と現状分析、課題の提示と解決策の示唆を行っている。
タイトルに付された「インタラクティブゼミナール」という言葉が示すように、本書は各章に示される著者の知識を吸収するというより、各章を読んだ者同士が意見をぶつけあう、ということに力点を置いており、そのためにデスカッションテーマとロールプレイのテーマが例示されている。文化を異にする者同士が社会を構築する中で、来る者と受け入れる者とのインターラクティブな取り組みが必要になるが、そのことを学ぶ方法も著者と読者、読む者同士のインターラクティブな取り組みとなっている。
2019年4月に施行された新しい入管法を契機に外国人材の受け入れ拡大に向けた政策が動き出している状況の中で、これだけの質量を持った多文化社会論がいちはやく登場することに、私は日本の多文化社会形成への大いなる希望を持つ。移民問題への対応は欧米諸国に見られるように社会の分断をもたらすリスクを孕むものであり、米中対立や新型コロナ肺炎を背景にアジアにおける(中国から)日本への再シフト、それに伴う海外からの人材流入の加速が予想される中で、本書は、移民問題対応への優れた先行モデルを示すための有益な、そして質の高い参照文献として位置付けられるに違いない。
(武蔵大学名誉教授 貫隆夫)
ちなみに、本書の構成は以下のようになっている。
はじめに 万城目正雄
インタラクティブゼミナールにようこそ!本書の対象と活用術 川村千鶴子
第Ⅰ部 出入国管理政策と改正入管法の基礎知識
第1章 入国管理とは何か:日本の政策展開と2018年改正入管法 明石純一
コラム1 日本におけるEPA外国人看護師・介護福祉士の受入れ 村雲和美
第2章 日本に在留する外国人の人権 秋山肇
第3章 高度人材獲得政策と留学生 佐藤由利子
第4章 日系人と日本社会:歴史・ルーツ・世代をめぐって 人見泰弘
第5章 日本の生産を支える外国人材:技能実習制度と特定技能制度 万城目正雄
第6章 自治体の外国人住民政策と社会保障 阿部治子
第Ⅱ部 多文化「共創」社会の実践に向けた課題
第7章 外国人高齢者への健康支援とケアマネジメント 李錦純
第8章 日本語教育の役割と今後の課題:外国人受入れと日本語学校教育 山本弘子
第9章 外国人人材の獲得とダイバーシティ・マネジメント 郭潔蓉
第10章 多文化共創による持続可能な社会開発 佐伯康考
第Ⅲ部 海外での多文化「共創」から
第11章 韓国の移民政策と多文化社会 申明直
第12章 難民の社会参加と多文化社会:トルコと日本の難民受入れを事例として 伊藤寛了
第13章 ドイツの移民政策と地域社会:欧州難民危機を受けたドイツ社会の対応 錦田愛子
第14章 アメリカにおける非正規移民1.5世をめぐる政治と市民社会 加藤丈太郎
終章 新しい多文化社会論:共に拓く共創・協働の時代 川村千鶴子
コラム 移民博物館の創設:社会統合政策への理解 川村千鶴子