【多読味読<54>:錦田愛子編『政治主体としての移民・難民ー人の移動が織り成す社会とシティズンシップ』】(明石書店2020年3月31日、279頁)

多文化研のみなさま
川村千鶴子
パンデミックの最中、政治主体としての移民と難民の人々のシティズンシップを探究した待望の集大成が完成しました。
https://honto.jp/netstore/pd-book_30249620.html
政治主体としての移民/難民 人の移動が織り成す社会とシティズンシップ
誰一人取り残さない世界をつくるためには、移民と難民の人々との関わりが欠かせない。誰もが当事者性を感じつつ、身近に話し合うべきテーマです。
まずは、編者で多文化研会員の錦田愛子(にしきだあいこ)さんをご紹介します。

錦田愛子(にしきだあいこ)
現在は、慶應義塾大学法学部政治学科准教授。
1977年 広島県生まれ、東京大学法学部卒業、同法学政治学研究科修士課程修了。総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了(文学博士)
専門はパレスチナ/イスラエルを中心とした中東地域研究です。
主な著作として
*『政治主体としての移民/難民――人の移動が織り成す社会とシィティズンシップ』編著(明石書店、2020年)
*「紛争・政治対立と移動のダイナミクス――移民/難民の主体的な移動先選択」小泉康一編著『「難民」をどう捉えるか――難民・強制移動研究の理論と方法』(慶應義塾大学出版会、2019年、81-96頁)
*「なぜ中東から移民/難民が生まれるのか―シリア・イラク・パレスチナ難民をめぐる移動の変容と意識」『移民・ディアスポラ研究』第 6号(2017年、84-102頁)
*「北欧をめざすアラブ系「移民/難民」――再難民化する人びとの意識と移動モデル」広島市立大学紀要『広島平和研究』4号(2017年、13-34頁)http://www.hiroshima-cu.ac.jp/modules/peace_j/content0252.html
*『移民/難民のシティズンシップ』編著(有信堂高文社、2016年)
*『ディアスポラのパレスチナ人―「故郷(ワタン)」とナショナル・アイデンティティ』(有信堂高文社、2010年)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784766423716
https://honto.jp/netstore/search/au_1000593787.html
<多読味読対談>

Q1(川村):これまで錦田さんの論考を拝読する度に、グロバール化の奥深さを感じてきました。執筆者の玉稿が揃った集大成というべき大著ですね。刊行まで、どの位の期間をかけましたか?
錦田愛子(^^):お恥ずかしいながら、こちらは2016年度に終了した共同研究会の成果で、刊行までかなり時間がかかってしまいました。共著者の皆様には3年前の2月に初校をお寄せ頂き、それから業務の合間を縫って編集作業を進め、今年3月の刊行となりました。
Q2.序章を拝読し、第1章 近藤敦さんと第4章の陳天璽さんから、拝読しています。拝読するのに順番として、お薦めの読み方がありますか?
錦田愛子(^^):各章は独立した内容なので、ご興味のあるところからお読み頂いて構いません。とはいえ法律の枠組みを踏まえてから、人類学的調査の研究に読み進める方が、頭を整理しやすいかもしれないので、授業では1章から順に扱っています。
Q3.抗しがたい難解なテーマもあるように思います。正解のない問いかけもありますか?編者として、力を注いだのは、どんな点でしょうか?
錦田愛子:移民/難民がそれぞれのおかれた社会で、援助や政策の客体としてだけではなく、主体として政治的・社会的に影響を及ぼし得る存在だ、ということを強調しました。その共通テーマを基に、各章は比較的自由にお書き頂いていますが、全体として調和のあるものになっていると思います。専門性が高いという点では、少し難解な個所もあるかもしれません。現在進行形の課題ばかりですので、まだ正解はないかもしれませんね。
Q4:このコロナ危機にある時、幅広い年齢層に読んで欲しい内容だと思いました。高校生も読むことができますか?
錦田愛子(^^)♪:専門用語の多い章は、完全に内容を理解してもらうのは難しいかもしれません。でも当事者の声を感じ取って頂けるかと思います。幅広いテーマで移民/難民の現在を問う内容となっております。ぜひ授業などでご紹介頂ければうれしい。
<多文化研の必読書です。目次をご高覧ください>
序章 移民/難民と向き合う社会をめざして[錦田愛子]
■「国際化」する日本
■「今そこにいる人々」と向き合う
■「自分とは違った人たちとどう向き合うか」
■「包摂と排除」を越えて
■「移民/難民」のシティズンシップ
■各章の内容
■多様な生き方への尊重
第1部 移民/難民の政治参加の保障のあり方
第1章 民主主義諸国における移民の社会統合の国際比較――権利レベルと実態レベル[近藤敦]
はじめに
1.政治参加
2.永住許可
3.国籍取得
4.労働市場
5.家族呼び寄せ
6.教育
7.差別禁止
8.保健医療(健康)
おわりに――インターカルチュラリズムとしての多文化共生
第2章 難民及び庇護希望者の労働の権利――難民条約と社会権規約の比較検討[小坂田裕子]
はじめに
1.難民条約における労働の権利
2.社会権規約における労働の権利
3.考察
おわりに
第3章 リベラルな社会はいかなる意味で多様な集団に対して「寛容」でありうるか――「中立性」概念の検討を手がかりに[白川俊介]
はじめに――岐路に立つ多文化主義とリベラリズム
1.リベラリズム・寛容・中立性
2.「中立である」とはどのようなことを意味するのか
3.「リベラルな文化主義」はいかなる意味での「中立性」を擁護するのか――ウィル・キムリッカの説明
4.「処遇の中立性」の擁護と「平等な承認」――アラン・パッテンによるキムリッカ批判
5.「リベラルな文化主義」はいかなる意味で「リベラル」であるべきか――パッテンによるキムリッカ批判の含意
むすびにかえて
第2部 法と政治という暴力――奪われるシティズンシップ
第4章 難民から無国籍者へ――身分証明書が持つ暴力性[陳天璽]
はじめに
1.国籍と個人
2.在留管理制度の導入と無国籍者の類型
3.難民の国籍、身分証明書、アイデンティティ
おわりに――身分証明書が持つ暴力性
第5章 イギリス海外領土からの強制移動[柳井健一]
はじめに
1.バンクール事件――事件の背景
2.訴訟におけるマグナ・カルタ
3.現行法としてのマグナ・カルタ
4.権利章典としてのマグナ・カルタ
結語
第3部 移民/難民による政治・社会の再構築
第6章コミュニティを御する人びと―北部ウガンダにおける人の移住とその暮らし[飛内悠子]
はじめに
1.ウガンダの国籍法と難民政策
2.マディ・ランドと南スーダン
3.ビヤヤ(Biyaya)
4.共同体を御する場
結論
第7章 環流する知識と経験――難民の「帰還」とシティズンシップ[久保忠行]
1.移民/難民とシティズンシップ
2.タイ・ビルマ国境の移民/難民
3.難民キャンプの政治性
4.環流する知識と経験
第8章 スーダン・ヌバ難民キャンプからの報告――シティズンシップの連続と断絶[佐伯美苗]
はじめに
1.近代スーダンとヌバの成立
2.紛争とヌバ
おわりに
第4部 人口割合がもたらす政治的・社会的インパクト
第9章 東マレーシア・サバ州における越境のポリティクス――フィリピン系ムスリム移民/難民の事例を中心に[床呂郁哉]
はじめに
1.フィリピン南部/サバ間の人の越境的移動の概要
2.サバへのインパクト――人口動態への影響
3.受入国への社会的・政治的影響
4.移民/難民の越境的移動の背景
結語
第10章 パレスチナ難民のシティズンシップ――ヨルダンとレバノンにおける移民/難民の人口増加が与える政治的影響[錦田愛子]
はじめに
1.人口統計からみるディアスポラのパレスチナ人
2.ヨルダンのパレスチナ難民
3.レバノンのパレスチナ難民
4.難民の人口比とシティズンシップ
第11章 なぜ男性移民は社会から排除されるのか?――UAEとカタルにおける人口男女比の不均衡がもたらす政治社会問題[堀拔功二]
はじめに
1.GCC諸国における人口バランス問題と男性移民
2.都市部における男性移民の集住と隔離
3.公共空間における男性移民の排除
おわりに
ぜひ感想を<多読味読>にお寄せください。Web班のご尽力によって、「多読味読」は多文化研ウェブサイトに掲載され、Facebookアカウントにも投稿されています。
川村千鶴子