多読味読<97>【土田千愛著『日本の難民保護:出入国管理政策の戦後史』慶應義塾大学出版会 2024年1月】

目次
序 章 日本の難民保護を問う
第1節 本書の問題意識
第2節 用語の説明
第3節 調査方法
第4節 分析の範囲
第5節 本書の構成
第1章 難民研究・移民研究と国境を越える人の移動
第1節 庇護と国家主権
第2節 国境を越える人の移動と国家主権
第3節 日本の難民研究
第4節 先行研究における課題と本書の位置づけ
第2章 難民保護の前史
第1節 単一民族国家形成の試み
第2節 外国人登録令の制定と出入国管理令の制定
第3節 出入国管理令における政治亡命者への対応
第4節 政治犯罪人と政治亡命者
第5節 出入国管理令改正の試み
第6節 政治亡命者の保護に向けて
考 察
第3章 インドシナ難民の保護から難民認定制度の成立へ
第1節 インドシナ難民の保護
第2節 「難民の地位に関する条約」への加入
第3節 難民認定制度の成立
考 察
第4章 難民認定制度の再検討
第1節 瀋陽総領事館事件と難民認定制度の見直し
第2節 新たな難民認定制度の成立
考 察
第5章 「送還を促進すべき者」と「保護すべき者」
第1節 送還に関する問題の変容
第2節 「送還停止効」の例外規定の創設
第3節 補完的保護に関して
考 察
終 章 日本の難民保護
第1節 日本の難民保護
第2節 難民研究・移民研究に対する学術的示唆
第3節 日本の難民研究に対する学術的示唆
第4節 政策提言
註
あとがき
参考文献
索引
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多文化研メディア班 増田隆一
単なる「研究者による歴史解説と構造分析」ではない。
各章に示されている<経緯と事実確認>には、必ず”どのように起きたか”と”根本原因は何か”と”どうすべきだったか”が、さりげなく提示されている。
言論の世界では、『立場のない立場はない』とされている。
しかし、学術研究の世界では、「要素となる事実を列挙し、その関係性を示し、成立させる構造を支配する法則(あるいは予測)を提示」すれば、論としては完成するといっていい。研究者の立場そのものが、研究論文の是非を左右することは稀であり、問われる場合はほぼ皆無であろう。(ガリレオの宗教裁判などは別としても)
しかし、この著者は、あえて立場をはっきりとさせているように、この本からは読み取ることができる。
それは「人としてどう考えるべきか」や「こういう状況を目の当たりにして、するべき行動は何か」などの形で、折々に例示される。
文字の表面だけを追えば、”淡々と事実を並べ、その概要を説明している”に見えるかもしれない。しかし、注意して読めば、ところどころに「・・・について検討はされなかった」や「・・・は排除された」などの表現があり、(なぜだ!)と土田氏が歯軋りした風景が見えるようだ。
この言葉を書いた瞬間に、著者の鼻の穴からは、”ボッ”と炎が出たであろう。
この本が全体性をもって、読んだ人に与えるであろうインパクトは、「国や政治や制度や政策は、人道的立場が大前提であるべきではないか?」という、著者の姿勢(おそらくは人生そのもの)に由来しており、いうまでもなくそのスタンスは、全ての政治家が、資質として保有しているかを問われるであろう。
「難民」という社会的存在は、日本ではこれまであまりなじみがなかったから…などという言い訳は、歴史を知らない(または学んだことがない)人の妄言である。
664年『白村江の戦い』の直後、朝鮮半島から日本に数千人にのぼる難民が流入したことは、記紀にも書かれている。その痕跡(地名や集落や集団や風習)は、西日本の各地に残っている。
共産革命直後、中国本土から知己を頼って渡ってきた中国人難民は、神戸・横浜のみならず日本各地にいる。
著者の目は、それらの歴史的背景を放り出して、戦後日本の難民制度を<中央政府の都合(事務作業や施設運営で)に良いようテキトーな発想で真摯に向き合わないまま、もてあそんだ>政府・自治体の政策決定者や施設管理者に、厳しく向けられている。
その鋭く穏やかな眼差しは、実は我々自身のありようにも、等しく注がれているといえるだろう。
まず、背筋を伸ばして、不見識を恥じねばならないのは、我々自身だったのだ。
政府・自治体の政策決定に関わっている方々は、是非いちど目を通して欲しい。
噛み砕かれた「どうして」「どのように」「どうすれば」が、心に沁みわたるはずだから。
著者:土田千愛
東京大学地域未来社会連携研究機構特任助教。博士(国際貢献)