【多読味読<8>:小泉康一著『グローバル・イシュー ・都市難民 Global Issue :Urban Refugees』ナカニシヤ出版2017年2月、217頁、3700円】
Global Issue Urban Refugees 世界中の都市へ逃げ込む難民をどう救うのか。
行政サービスは欠如し、状況は不安定で危険である。・・・最終的な落ち着き先を待
つ間、読み書きの能力、言葉、職業上の技能ギャップを埋める計画を立てて支援することが大切。
メディアの役割やコミュニティとの関わりなども重要。物理的な力で事業を進めるのではなく、世界銀行で使われてきている定住指針に基づいて行うようにされる必要がある。・・・
かつて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)でプログラム・オフィサーとして従事さ
れ、その後も世界中の強制移動民の調査をひたすら続けてこられた小泉康一先生が,農村から都市部へと向かう難民の実態と,援助のあり方を議論されています。難民の労働権に関して、難民が安全で正規の雇用が許可された場合には、利益となることを実証的に示されています。さらに難民は知識や技術をもたらし、農業以外にも専門技術や商いの技術を持つ人もいる。受け入れ国の経済は利益を得る。経済成長と政治的安定を求める国は、難民に職業機会を与え、関連する諸権利を認めるべきであろう。
定住は複雑な社会過程であり、地域で彼らが活動的で、一貫性と機能性を再び取り戻
せるように支援すべきとも書いています。現在の避難の状況は、強制移住理論や大半の人道援助措置にはそぐわない。原因国、目的国、周辺国、各国政府、実業界と市民社会などすべての行為者の役割を明確にし、国際合意を進め、いまある制度をより良く機能される上で、創造性が求められていると結んでいます。
序 章 問題の概観
1 はじめに
2 現代の危機と移動する多様な人々
3 急激な都市化と都市型災害
4 不可視の人々 ――利便性と危険性――
5 〝現実は選択の問題ではない〟という多様な理由を理解する
第1章 背景と文脈
1 都市難民とは何か
2 困難な定義
3 UNHCRの見方と取り組み
4 敬遠・忌避される難民キャンプ
5 都市にとって、なぜ都市難民が問題なのか
6 都市難民が抱える特有の事情
第2章 都市難民へのアプローチ ――基本となるデータと分析法――
1 はじめに
2 移動の心的状況
3 都市への流入と困難な実態把握
4 国際強制移動研究と生計アプローチ
第3章 難民の法的保護 ――国家の政策と法制――
1 はじめに
2 国家の安全保障への懸念と負担の感覚
3 厳しさを増す〝北〟への入国と暴力的抵抗
4 法の実施と難民保護
5 UNHCRの新政策と保護活動
6 登録と難民認定
7 書類入手と法的地位
8 労働権
9 まとめ ――人道と政治(市民権)――
第4章 都市で生きる
1 はじめに
2 受け入れ国での障害
3 深刻な住居問題
4 頻繁な移動と登録
5 〝ただ待つ〟ことは病気にする
6 生きるための戦略・工夫
7 歪んだ戦略を強いられる難民もいる
8 絆の社会ネットワーク
9 当面の課題
10 調査と介入
第5章 都市の成長と危機移動――地方自治体と国際人道援助――
1 はじめに
2 地方自治体の責任と役割
3 多様な対象者と援助
4 移動と開発
5 都市開発と人道活動
6 人道空間と人道行為者
7 人道援助とコミュニティでの生活
8 法的枠組みと統合過程
第6章 グローバルな避難民と都市対応の人道活動
1 はじめに
2 不可逆的な都市化と国民国家の人口管理政策
3 グローバル化の高まりと南北間の格差の拡大
4 おわりに――広い視野と新しい人道指針――
終 章 都市難民の研究 ――倫理と科学的厳密さ――
著者のプロフィール:1948年仙台市に生まれる。1973年東京外国語大学インドシナ科卒業。1977年東京外国語大学大学院修士課程修了。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)タイ駐在プログラム・オフィサー、英オックスフォード大学難民研究所客員研究員、ジュネーヴ大学国際関係高等研究所客員研究員。現在、大東文化大学国際関係学部教授。専攻、難民・強制移動民研究
小泉先生とは、日頃、学バスでご一緒できるので幸運です。
川村千鶴子