【多読味読<89> 荻野政男 著『外国人向け賃貸住宅〜ノウハウのすべて〜』255P、住宅新報出版 2022年6月】
多文化研のみなさま
川村千鶴子

人権に根ざし、日本における外国人向け賃貸のパイオニアである荻野政男社長(株イチイ代表取締役、多文化研会員)の最新作『外国人向け賃貸住宅ノウハウのすべて』が出版されました。
「ビジネスと人権」を考察する上にも「ともに安心して住まう」ことが基盤となります。
外国人向け賃貸住宅ビジネスを40年以上先進的に展開され新たな道を拓いてこられた荻野さんならではの力作です。
4月30日の多文化共創フォーラムにご登壇いただいた後藤裕幸社長(株GTN代表取締役)との対談から始まります。
<目次>
■特別対談 ー「外国人向け賃貸の過去、現在、そして未来について」
—– 荻野政男×(株)GTN代表取締役社長後藤裕幸
第1章:なぜ、今外国人向け賃貸なのか?
第2章:日本にいる外国人と住宅事情
第3章:外国人にアピールできる物件とは?
第4章:外国人に効果的な集客術を駆使しよう!
第5章:実践ノウハウ物件紹介から契約まで
第6章:居住マナーを伝え、生活サポートを万全に
第7章:異文化共生とリスク対策
Column1アメリカへの憧れとコルピングハウス
Column2外国人労働者が暮らす町ロンドンの暮らし方に興味津々
Column3外国人の住まいを支援するビジネスをスタート
Column4英字新聞に出した3行広告が大当たり!
Column5外国人向け賃貸が「未知」の時代家主さん探しに四苦八苦
Column6「外国人ハウス」を経てJ&Fハウスが大人気に!
Column7「異文化共生住宅」の夢のため不動産会社にできることを
=====
荻野社長プロフィール
荻野 政男(おぎの まさお)
株式会社イチイ代表取締役。株式会社ジャフプラザ(シェアハウス運営)、株式会社イチ
イコーポレーション(マンスリーマンション運営)、株式会社アドバンスネット(ペット
共生型賃貸の運営)などグループ会社の代表取締役。福島県出身、法政大学社会学部卒
。(公財)日本賃貸住宅管理協会常務理事・あんしん居住研究会会長、(一社)高齢者住
宅財団理事、東京都居住支援協議会委員、NPO 法人Live in Japan協会副理事、まち居住研
究会(日本人と外国人のよりよい共生を考える市民グループ)事務局長。大学時代に欧米
各国に滞在した経験から外国人居住の安定化を図るとともに、外国人と日本人の共生型ゲ
ストハウス(J&Fハウス)の運営や、日台・インターナショナル交流会などを定期的に開
催。外国人入居関連のセミナーは100回を超える。新聞に「ボーダレス時代の異文化共生
住宅」、「異文化共生住宅の課題」などの連載コラムを執筆。著書に『3.11後の多文化家
族』(共著、明石書店)、『いのちに国境はない 多文化「共創」の実践者たち』(共著、
慶応義塾大学出版会)など。
=============
<書評>
書評は、佐々木てる教授にお願いいたしました。
=====
本書は日本で外国籍の方々に部屋を貸す際の、注意点を含めた実践的な本だといえる。
著者自身が海外から来た人々に20年以上前から、現場で賃貸の実務を行ってきたため、その中身は非常に目配りが聞いており、想定されるトラブルや、事前に説明しておいた方がいいことなど詳細に書かれている。その意味では非常によくできた、賃貸業者向けのノウハウ本といえるだろう。ただしこう書くと、外国から来た人々に部屋を貸すのは注意した方がいい、という風に読まれるかもしれない。本書の良い点は、著者が「積極的に」海外から来た人々に部屋を貸すことを勧めていることである。そしてその背景にあるのは、日本の人口減少や、多様性の承認といった社会的な現状や現代的な思想である。
評者自身、地方都市に住んでおり、深刻な人口減少を目の当たりにしている一人である。実際空き家問題や労働力不足の問題は深刻である。そういった社会的背景から、海外からの人材を積極的に受け入れようという話は多くなっている。しかしながら、確かにこうした「住」に関するノウハウは多くの人は知らない。そして知らないがゆえに、「ちょっとめんどくさい」「怖い」といった先入観で「外国人には部屋を貸すのは・・・」といった言葉が聞かれる。今後の日本社会、特に地方都市にとって、海外からの人材、そして移住者、将来的な移民の受け入れはしっかりと考えなくてはならない問題である。その場合、こういった現場の経験から書かれた本はますます重要性を増してくる。
もちろん本書は現在の日本の習慣、制度を「いかに正しく海外から来た人に伝えるか」が目的となっている。しかしながら、多くの人が日本に移住をすることも念頭におくならば、積極的に「日本的な制度」を変えていく視点も重要であろう。共生とはまさしく、共に変化していくことである。その意味で本書がきっかけとなって、さらなる相互理解と相互変容が進むことを願っている。
多文化研理事
佐々木てる (青森公立大学 地域みらい学科 教授)