【多読味読<86> テリー・マーチン著 『アファーマティヴ・アクションの帝国』明石書店 2011】
4月30日に172回多文化共創フォーラムを開催するにあたって、以前、共同で翻訳しました本を一冊紹介いたします。
荒井幸康

ソヴィエト連邦最初期の民族関係をめぐる問題を網羅した720頁を超える本です。
プーチン政権になってだんだんと外国人には見せなくなった資料もふんだんに使い1923年から1939年まで、革命を成功させるために特に民族関係に配慮した時期、その矛盾から、民族政策を転換していき、大テロル(昔は「粛清」と言ったりしてました)によって民族が徹底的に抑圧されていく時期までを描いています。
以下の目次を見ていただいてもわかりますが、ソヴィエト中央にとって、ウクライナとの関係が民族政策に関するその視野の大きな部分を占めていました。
私自身は言語の社会史が専門ですので第5章、第10章の言語政策に関わる章を担当しました。(第3章もやりたかったですが)
ただ、本は英語で通読しましたし、民族を丸ごと強制移住させる政策に関しては”The Origins of Soviet Ethnic Cleansing*”と題してシカゴ大学で1998年に論考が出てきた時からこの著者に注目していたので、翻訳に参加しました。
この時期に行った政策は、今ウクライナで行われている侵略戦争においてロシアが、住民の強制的な移住をはじめ、あちこちで使っているように見えます。時を超えても政策・思考のカタチは変わらないのかなあと思い、いささか残念でもあります。
第一章 ソ連――アファーマティヴ・アクションの帝国
アファーマティヴ・アクション帝国の論理
アファーマティヴ・アクション帝国の内実
アファーマティヴ・アクションの帝国とは何か
党とアファーマティヴ・アクションの帝国
アファーマティヴ・アクション帝国の地域問題
アファーマティヴ・アクション帝国の時代区分
第一部 アファーマティヴ・アクション帝国の始動
第二章 境界と民族紛争
民族ソヴィエトの出現――ウクライナ
民族ソヴィエトの拡大――ベラルーシとロシア
民族ソヴィエトと民族紛争――ソ連東方
まとめ
第三章 言語のウクライナ化(一九二三年~三二年)
ウクライナ化の前史(一九一九年~二三年)
ウクライナ化(一九二三年~二五年)
カガノヴィチのウクライナ化(一九二五年四月~二六年六月)
全面的ウクライナ化の頓挫(一九二六年~三二年)
まとめ
第四章 ソ連東方のアファーマティヴ・アクション(一九二三年~三二年)
東西の区分
文化基金
機械的なコレニザーツィヤ(一九二三年~二六年)
機能的なコレニザーツィヤ(一九二六年~二八年)
アファーマティヴ・アクションと工業労働現場の民族紛争
文化革命とソ連東方のコレニザーツィヤ
まとめ――コレニザーツィヤの東西
第五章 ラテン文字化キャンペーンと民族アイデンティティのシンボル政治
ラテン文字化キャンペーン
脱ロシア化としてのラテン文字化
ソ連西方の言語とテロル
第二部 アファーマティヴ・アクション帝国の政治危機
第六章 民族共産主義の政治力学(一九二三年~三〇年)
シュムスキー事件
民族問題と左翼反対派
社会主義の全面攻勢と文化革命
文化革命の見せしめ裁判――ウクライナ
警告シグナルとしてのテロル
テロルと政策転換――ベラルーシ
まとめ
第七章 一九三三年の飢饉に民族を見る
ピエモンテ原理とソ連の境界紛争
ロシア共和国のウクライナ問題
クバン事件
穀物調達危機に民族を見る
まとめ――一九三二年十二月の政治局決定の余波
第三部 アファーマティヴ・アクション帝国の修正
第八章 民族浄化と敵性民族
国境地域
移住の政治力学
農業集団化と国外移住
ウクライナ危機
民族浄化
敵性民族
まとめ
第九章 修正されるソ連の民族政策(一九三三年~三九年)
スクルィプニク事件
「最大の脅威」原理
スクルィプニク事件後のウクライナ化
暗黙のコレニザーツィヤ─ソ連東方
まとめ
第十章 再浮上するロシア
不自然な共和国――ロシア共和国
ロシア共和国の多民族化
ロシア共和国のロシア化
ロシア文字化と大後退のシンボル政治
言語と大テロル
まとめ
第十一章 諸民族の友好
諸民族の友愛
諸民族の友好
スターリニズムの原初主義
同等の中の第一人者
まとめ
解説(塩川伸明)
あとがき(半谷史郎)