【多読味読<85> 阪口毅著『流れゆく者たちのコミュニティー新宿・大久保と「集合的な出来事」の都市モノグラフ』ナカニシヤ出版2022年2月28日】
流れゆく者たちのコミュニティ

川村千鶴子
コミュニティには、人間の英知の歴史があることを感じされてくれます。本書は、世界中に衝撃が走った2022年2月28日に上梓されました。多元価値社会において、遠くの母国から避難する人もあたたかく包摂するまちがあります。多種多様な人びとが共に暮らす複層的「都市」には、日々多様な出会いがあります。そこでは創造的なつながりが生まれ、新しいコミュニティの文化が形成され共創されると思っております。
「共に住むまちづくり懇談会」という名称が「共住懇」という愛称で親しまれてから実に30年が経ちました。本書の著者は、共住懇の阪口毅さん(立教大学コミュニティ福祉学部准教授)です。阪口さんは、卒論(2009年)、修論(2012年)、そして博論(2016年)として新宿・大久保地区でのたゆまないフィールドワークをまとめられ、学術的集大成としてさらに再構成して本書(335ページ)にまとめられました。
阪口さん、この貴重な厚い集大成を、ご恵贈いただき心から感謝申し上げます。
コミュニティの今日的あり方を考える上にも、多文化研のみなさまの必読書だと思います。
序文 地図1 新宿・大久保の広域地図
地図2 大久保と「中心地区」
表 場所と水脈の歴史
序 章 場所と出来事のコミュニティ研究──移動性と領域性のジレンマを越えて
第一節 構造か象徴か──既存のアプローチ
第二節 コミュニティの三つの位相
第三節 場所と出来事のコミュニティ研究
第四節 事例研究の概要
第Ⅰ部 場所と水脈
第一章 移動の地層──新宿・大久保の〈象徴的空間〉の複数性
第一節 新宿・大久保の概観
第二節 大久保の歴史的形成と〈移動の地層〉
第三節 大久保における〈象徴的空間〉の複数性
第二章 活動の水脈──新宿・大久保と「共住懇」の道行き
第一節 「共住懇」の水脈
第二節 「共住懇」の展開
第三節 水脈としての「共住懇」
第Ⅱ部 集合的な出来事
第三章 分立する「祭」──「しんじゅくアジアの祭」、 第一節 「アジアの祭」の年代記
第二節 「しんじゅくアジアの祭2009」の始動
第三節 「しんじゅくアジアの祭2009」の資源
第四節 分立する「祭」
第四章 「場所」をかちとる──「OKUBOアジアの祭」
第一節 運営体制の大転換
第二節 いくつもの「祭」
第三節 「OKUBOアジアの祭2011」の資源
第四節 もうひとつの「祭」
終 章 流れゆく者たちのコミュニティ──移動性と領域性の理論に向けて
第一節 構造と象徴
第二節 コミュニティの在処
多文化研のみなさま
*5年前に始めました<多読味読>ではなんと85冊をご紹介することができました。
日々、学び、みなさまの鋭い筆力と熱い思いをひしひしと感じてまいりました。
心から感謝申し上げます。ありがとうございます。
<総会に向けて>でご案内いたしましたように、2022年度から<多読味読>欄は、多文化研理事の荒井幸康さんと佐々木てるさんが担当してくださいます。
ぜひ皆様のご著書や論考、論文などをお二人にお送りくださいませ。
感謝を込めて
2022年3月16日
川村千鶴子