【多読味読<84> 『外国人介護士と働くための異文化理解』
(編著:渡辺長 大阪大学出版会 2022年2月)296ページ。2900円】
ウクライナ情勢に目が離せませんね。
一方、ご存知のように介護分野での外国人材受入れ政策が進んでいます。
EPA( 経済連携協定)などに基づく外国人介護福祉士の受入れにはじまり、外国人技能実習制度や特定技能制度による介護士の受入れ、そして2016年には在留資格(介護)が創設されました。多文化研には介護分野でご活躍されておられる研究者がおられます。この度、渡辺幸倫副理事長と坂内泰子理事も共著者である書籍が刊行されました。

◆渡辺長編著『外国人介護士と働くための異文化理解』大阪大学出版会2022年2月296ページ。2900円
<序章 外国人介護士が現場にもたらすもの>
<第1部 受け入れ制度と諸外国の情勢>
第1章 外国人介護士受け入れ制度
第2章 諸外国における外国人介護人材の受け入れ事情
<第2部 外国人介護士受け入れの手順>
第3章 受け入れ施設における体制構築のポイント
第4章 外国人介護士の育成・定着と活躍できる環境づくりのポイント
<第3部 異文化介護を考える視点>
第5章 文化背景が異なる人々との介護コミュニケーション
第6章 やさしい日本語―同僚は外国人
第7章 異文化の死生観と看取り
<第4部 主要送り出し国の異文化介護観>
第8章 中国における介護観とその実践
第9章 ベトナムにおける介護観とその実践
第10章 フィリピンにおける介護観と実践
第11章 インドネシアにおける介護観と実践
第12章 タイにおける介護観とその実践
*付録 介護現場で使える挨拶
*あとがき
*著者紹介
ぜひぜひ、ご高覧くださいませ。
書評:増田隆一(多文化研副理事長)
本書では、多文化研副理事長・渡辺幸倫相模女子大教授と、理事・坂内泰子(一財)自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザーが、それぞれ一章を受け持たれている。
研究書のように見えて、研究書ではない。
ガイドブックのようなタイトルだが、その内容と読後効果はガイドブックをはるかに超える。
一般的に、”社会に存在する根源的課題”について、学術研究者は「その原因は何か」「解決のために何が必要か」「解決を導く道筋はどこにあるか」「原因を根絶する方法はあるか」などを、客観的事実と再現性がある証明手順を材料として示し、広く認知されている論理を演繹することで、論文の結語を導く。
一方で、多くの実務者にとっては、「獲得したい目的・目標」をいちばん最初に掲げてから、その達成または入手を実現するための、「種々の条件」「考えられる障害」「合理的な処理手順」「それぞれの費用対効果」などを列挙し、<最も好まれている現状ケーススタディ>を結論とするテキストが、執筆のスタンダードといえよう。
本書は、この両方の領域のエキスパートが、それぞれの領域を超えて、お互いのメリットとデメリットを認識し合う構成となっていて、編者・渡辺長教授の素晴らしいキャリアと濃厚な研究成果が、見事にダイナミックな章立てとして結実している。それは出版編集者の、よくありがちな”入門書”の編集企画とは、次元が違う切れ味となって、この書籍に具現化されている。
具体的に紹介しよう。
本書の前半には、『日本の医療現場における介護士の労務状況』『外国人介護士の受け入れ制度』などのような、<現状を理解するための客観的解析>と、『外国人介護士(労働者)を受け入れる手順』といった<実務の要諦>とが、効果的に納められている。
続いて、『介護現場で文化が異なる人々がどうコミュニケーションすれば良いか』や『日本語を習得するやさしい方法』など、まるで緊急マニュアルとして使えそうな親切なひとくだりまでが、備えられている。
末尾には、アジア各国の介護現場で、介護士に求められているスキルがどういうものか、またどういった環境で介護フローが機能しているかに至るまで、現場での”生きたケース報告”が列挙され、文字通り『日本で外国人介護士が働く環境を準備する』人々にとっては、至れり尽くせりの内容といっていいだろう。
いよいよ”高齢者人口の比率が高い日本”という時代を迎え、我々が介護施設や介護士と、日常的に接する社会が始まろうとしている。
出生率の如何ともしがたい低下傾向に伴って、労働人口がますます逼迫しつつある状況の中、外国人介護士が広く多く働ける環境を作ることは、日本につきつけられた喫緊の課題と言わざるを得ない。
研究者や実務者はもちろんのこと、地方公共団体の政務担当者や、国会議員にも、是非とも目を通して頂きたい一冊だ。
(増田隆一)