多読味読<63>:大野勝也「日本における零細家主形成プロセスと課題―外国人に対する住宅供給時の葛藤をめぐってー」『ソシオロジクス第42号2020』

【多読味読<63>:大野勝也「日本における零細家主形成プロセスと課題―外国人に対する住宅供給時の葛藤をめぐってー」『ソシオロジクス第42号2020』日本大学大学院社会学研究会】

Formation of micro landlord in Japan-Focusing on conflict with tenant from abroad-Society for the Study of SociologyGraduate School of Nihon Universitycid:174d82b272b4ce8e91

多文化研のみなさま

よく多文化研の魅力は、国籍・年齢・世代・所属・専門分野を問わず対等な人間関係と信頼関係を培っていることと言っていただいています。学部生時代から、多文化研に毎回必ず参加して的確な質問や鋭い意見を積極的に述べて、議論を盛り上げている大野勝也さん(日本大学大学院文学研究科社会学専攻博士前期課程)の存在は大きいですね。学術誌への寄稿論文を送ってくださいました。

<多読味読63>は、トーク形式で大野さんの生き生きとした生の声をお伝えします。

Q(川村):凄い!論文を拝読して感激しました!住宅政策の歴史を精査し、零細家主の登場と実態零細家主からみる住宅困窮者と住宅政策の課題、そして、日本における外国人居住と続きます。賃貸住宅にける差別問題に着目しつつ、ハウジング議論が今後の課題となりますね。まず、大野さん、当初の問題の所在はどこにあったのか、強調したいところを教えてください。

A(大野):ありがとうございます。私が最初の問題意識は、昨今から叫ばれている少子高齢化社会において人口減少は避けて通れない問題です。それに伴い、労働力不足、高齢者のケア問題など社会課題も発生している現状です。

Q(川村):グローバルな人の移動とケアが発動する居場所が注目されてきました。ケアと気づき愛は、格差を是正するもとになっていますね。さてここではサブリースのことも問題になっていますが、今後はどのように展望しますか?

A(大野):サブリースというのはそもそも長期的に安定経営を望む家主側の意向の意味合いはあるかと思います。ただし、住宅に寄せて考えると東京などの大都市は一極集中がしばらくは続くものの、今後は減少していくでしょう。そうなると大量建設された住宅が空き家化と化す問題が考えられます。もちろん、サブリースも当初の想定通りに運用できるとは限りませんし、高齢者向けなど住宅のニーズも変化するでしょう。

今回の論文では、そうなる前段階(所有者であるオーナーを零細家主)とし、日本の民間賃貸住宅の供給主体が零細規模で支えている課題と、外国人流入の間で零細規模の供給がゆえに発生する課題を設定しました。

特に先程サブリースについて意見を述べましたが、供給主体である家主側に建築助成などの社会保障の可能性も展望されます。他方で、トラブルの際は家主単独ではなく不動産会社が間に入る場合がほとんどですが、日本の住宅供給システムと今後の課題として絞られた部分(家主、不動産会社、入居者)ではなく何らかのマクロな視点も必要だと感じています。

Q(川村):なるほど。大野さんの研究で、ここぞという独創性は何ですか。

A(大野):特に人口減少社会においてどの人も多様な人々が住みよい暮らしができる安心の居場所として、「共創」を軸に社会を考察することが、私のミッションだと考えています。特に様々な外国人が暮らす中で、インフラとしての住宅における問題は基本的な社会課題だと捉えています。

Q(川村):大野さんの独創性に期待しています。ところで多文化研では、ユースの活躍が目立ちます。この時期、後輩に向けるアドバイスがありますか?

A(大野):コロナ渦の中でオンライン授業や人とのかかわりが少なくなったと感じる方も多いと思います。しかし、以前からフェイストゥーフェイスの関係以外の関係はあったと思います。たとえば、SNSによるチャットなど当たり前に目の前に人がいないコミュニケーションをしていたと思います。ネットワークによる人々の弱く広いつながりを弱い紐帯などという場合があります。

Q(川村):今後を展望して多文化研の皆さんにメッセージをお願いいたします。

A(大野):今回ソシオロジクスを執筆するにあたっては住宅と外国人に焦点を当てました。目の前に当たり前にある建物ですが、実は外国人に対して優しくなかったり、様々なフィールドとなっています。学生のみなさんは、自分の中の当たり前が本当に当たり前か、考えてみると社会のあらゆることに視線が向くと思います。

是非、この「当たり前」を疑ってみてください。新しい知恵を得ていけたらと思っています。

(川村):パンデミックの最中だからこそ、トランスナショナルな地域の気づき愛(Global Awareness)が大切ですね。

とても勇気づけられる示唆的なメッセージをありがとうございました。

川村千鶴子
(9月29日 新型コロナによる世界での死亡者数が100万人を越えました。感染者数は、3340万人と言われています。)