多読味読<51>『買い物弱者とネット通販』久保康彦 (著), 渡辺幸倫 (著), 鈴木涼太郎 (著), 中西大輔 (著), 井口詩織 (著), 久保康彦・渡辺幸倫・鈴木涼太郎 (編集)

【多読味読<51>『買い物弱者とネット通販』久保康彦 (著), 渡辺幸倫 (著), 鈴木涼太郎 (著), 中西大輔 (著), 井口詩織 (著), 久保康彦・渡辺幸倫・鈴木涼太郎 (編集) くんぷる 2019年3月】

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「ポチる」という動詞が一般的に使われるようになったのは、10年ほど前だろうか?
1995年がインターネット元年とすると、それからわずか10年ほどで、光ファイバーがDSLよりも多くなり、Amazonが書籍販売よりも一般商品の取り扱いが多くなった。今や、スマホさえあれば、家財道具から日用品や食料まで、一般家庭で使うものはそのほとんどを発注することができる。

本書は、ごく普通の一家が、海外在住になることによって、日本にいれば簡単に手に入った日用品や書籍などが、欲しくとも手に入れられない”買い物弱者”となったことに注目した、ユニークな企画書籍である。ネット通販の流通における社会的な機能や一般的なシステム分析を導入部とし、従前の生産・物流・市場・消費という流通構造が劇的に変化しつつある消費社会を、今一度チェックしようとする構成手法をとっている。
さらに第2部では、在外日本人家庭が、海外では入手困難な日用品(特に子供関係の品々)を調達するにあたって、ウェブ物流がどのように利用されているか、さらにはどのような対応を強いられているかについて、フィールドワークを進めている。

社会学の一般的手法=類型化だけでは対応が難しいウェブ流通の変化について、在外家庭をサンプル源にした構造分析と考察を展開する工夫は、”発想した時点で面白そうな研究になる”ことは、自明だったに違いない。
2部構成の前半は、近未来における流通とウェブ購買の問題点や解決要素が、そこここに暗示されていて、興味深い。

一方で、少子化や医学の発達による長命化などが理由とみられる高齢者の増加で、”買い物に行きたくても行けない”買い物弱者が、いまや日本では焦眉の社会問題となっている。

AIによる自動運転車がまもなく実現しようとする今、「買いたいものはウェブで注文し、買った物のほうから家にやってきてくれる」世の中の到来を、本書が予感させてくれる。


『買い物弱者とネット通販』
第1部 買い物とインターネット

第1章 流通における調整形態の源流ー買い物弱者問題とネット通販をどう位置付けるのか

1.1 はじめに
1.2 企業環境と組織関係の研究系譜
1.3 資源ベース・アプローチと資源依存アプローチ
1.4 取引コストアプローチと中間組織
1.5 経済社会における調整概念
1.6 マーケティング論における調整概念
1.7 取引の長期・継続性と企業間統治
1.8 現代流通におけるネットワーク・アプローチ
1.9 むすびにかえて

第2章 SNSを活用する商業と消費者の関係ー「ZOZOTOWN」および「WEAR」におけるマーケティングの検討

2.1 はじめに
2.2 商業と消費者
2.3 SNSを活用する商業
2.4 おわりに

第3章 消費者情報システムと消費者学習

3.1 ネット社会がもたらす「暗い面」
3.2 関係性パラダイム
3.3 関係性パラダイム批判
3.4 消費者情報システム
3.5 消費者学習

第2部 買い物弱者としての在外子育て家庭

第4章 東南アジアにおける邦人子育て家庭の買い物環境

4.1 「買い物弱者」としての在東南アジアの邦人子育て家庭
4.2 タイにおける子育て商品の買い物環境
4.3 ベトナムにおける子育て商品の買い物環境
4.4 まとめ

第5章 バンコクにおける日タイ国際結婚家庭の教育商品調達について

5.1 はじめに
5.2 先行研究
5.3 日タイ国際結婚と日タイの両親を持つ子どもたち
5.4 調査の概要
5.5 インタビューの分析
5.6 考察:モノとサービスからみた教育商品
5.7 まとめ

第6章 在ベトナム邦人子育て家庭の商品調達における「弱い紐帯」の役割

6.1 はじめに
6.2 商品調達をめぐる諸議論と在外子育て家庭
6.3 研究の対象と方法
6.4 親族や友人への依頼とバザーの重要性
6.5 子育て用品調達における「弱い紐帯」の役割
6.6 むすびにかえて

第7章 商品分類からみる子育て商品の特殊性

7.1 問題の所在
7.2 商品分類の類型化
7.3 田村モデルの探索性向と探索マップ
7.4 在外子育て商品の探索価値と探索費用
7.5 子育て商品の特殊性
7.6 消費者ニーズの事前確定性と消費過程の多様性
7.7 むすびにかえて
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多文化研ウェブ班
    増田隆一