多読味読<43>:OECD(経済協力開発機構)&UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)『難民と働く―雇用主との連携において雇用主、難民、政府、市民社会へ向けた10のアクションプラン』

【多読味読<43>:OECD(経済協力開発機構)&UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)『難民と働く―雇用主との連携において雇用主、難民、政府、市民社会へ向けた10のアクションプラン』日本語版2018年12月UNHCR駐日事務所初版発行】

                    川村千鶴子 2019年10月4日

みなさまは、難民とともに働くというテーマに主眼を置かれたことがありますか。本書は実現可能なアクションプランを提案し、未来を切り拓く多文化共創の視座に立っています。
多文化研も難民の方々に支えられています。難民の方々は様々な知識や技術や専門性を持っていることが多く、新たな市場を創出し、受入国に貢献できる可能性を秘めています。
本書のページをめくるごとに、英国、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、トルコ、オーストリア、ハンガリー、フランス、ニュージーランド、ドイツ、カナダなどのグッドプラクティスが掲載されています。同時に次々に「ご存知でしたか?」というコラム(アクション例)を読んでいて、私はこれなら日本でもできる!と勇気づけられました。多文化研の皆様の中にはすでに始められている経営者の方々もいると思います。
履歴書を書くのを手伝っている学生たちもいました。

雇用主は、主体的にインターシップやアプレンティスシップ(実地職業訓練のための見習い制度)、オン・ザ・ジョブ・トレーニング、そして雇用を通して難民に機会を提供し、グローバルな市民と捉えています。
雇用主と難民との「ともに働く」関係性に主眼を置き、実践を通して協働共創の価値を説いている点で、非常に説得力のある読み応えのある一冊だと思いました。
具体的に雇用主との連携において雇用主、難民、政府、市民社会へ向けた10のアクションプランが詳述されています。
読み進むにつれて意識改革にも繋がっている点が画期的です。
ぜひ、以下の流れに目を通してください。
1.行政の枠組みをうまく運用・活用する。
2.雇用主に法的な確実性を提供する。
3.難民のスキルを特定し、検証する。
このあたりからポジティブな気持ちになります。
4.雇用において求められるスキルを磨く。
5.難民の能力と雇用主のニーズをマッチさせる。
6.採用における機会均等を確保し、固定観念とたたかう。
ここが凄く大事で、経営者は、自らの職場の労働環境を見直すことになります。
7.労働環境を整備する。
8.長期的な雇用を可能にする。
経営者が自信をもって難民とともに働くことによって新たな展望を拓き、「共創価値」を生み出すことができます。
9.難民雇用をビジネスチャンスにする。
10.当事者間のコーディネーションをする。
これらのアクションプランから、日本社会全体でどのように難民の労働市場への統合ができるのだろうか。
多文化共創とは何か。ヒントが込められています。
理論だけを羅列するのではなく、実用的なツールによって実践できる道を拓くことが、多文化共創社会の実現に繋がることを感じました。難民のスキルや特性は受入れ国に重要な経済的可能性をもたらすと思います。
 UNHCR駐日事務所のみなさまのご尽力に感謝いたします。
                             川村千鶴子