【多読味読<42>:佐伯康考Yasutaka, Saeki『国際的な人の移動の経済学』ECONOMICS OF MIGRATION 明石書店2019年3月19日発行179頁】

多文化研の理事である佐伯康考さんは、大阪大学共創機構社学共創本部に勤務されています。2018年1月、社会と「共に価値を創造する」ことを理念とする共創機構が設立されました。複雑化する現代社会の社会課題解決のためには、大学だけの視点ではなく、企業・自治体・地域社会・市民団体などとの「共創」によって従来にはなかったイノベーティブな発想による価値創造に取り組んでこられました。「共創」の概念をテーマとして外国人労働者を中心とした国際的な人の移動について研究されています。つまり異質なものが混ざることによって生じる摩擦や軋轢を「対立」ではなく、「原動力」として新しい社会イノベーションを生み出すことをめざし、活動をしてこられたわけです。
本書は、国際経済学と労働経済学のアプローチを連関させ、従来の研究では行われてこなかった国際的な人の移動と国内における人の移動を同時に捉えた地域労働市場の分析を行っています。佐伯康考さんの長年のご努力の学位論文の刊行と伺っております。先行研究をくまなく精読され、どんなにか大変だったことと思います。御母上・美都子さまの人工透析35年目を迎える日に、本書を上梓され、巻末に感謝の気持ちが述べられており感動いたしました。さらに著者印税分全額を、外国にルーツをもつ子どもたちの学習支援活動に寄付されることが書かれており、佐伯さんの想いが伝わってきました。ぜひ注文してください。
2019年4月、改正入管法の施行とともに、日本の外国人政策が大きな転換期を迎えたまさにその時に刊行されました。国際経済学と労働経済学のアプローチを組み合わせて、理論的、実証的に分析し、多文化共創社会へ向けた課題解決を考察しています。本の最後第4部には、佐伯さんの具体的な説得力ある5項目の制度・政策提言があります。賛成です。
「第7章 国際的な人の移動の潜在力―多文化共創社会への視座―」です。
■以下の目次から本書の流れを読み取っていただけると幸いです。
序 章
第I部 国際的な人の移動の経済学的分析
第1章 経済統合と地域労働需給ミスマッチ
第II部 新興国の台頭と東アジア域内における国際的な人の移動
第2章 日本から新興国への高度人材移動に関する経済学的研究
第3章 ASEAN経済統合下における日系企業の人材現地化及び人材移動に関する経済学的考察
第III部 国内労働市場における外国人労働者の役割と社会統合の課題
第4章 地域労働市場の需給ミスマッチとアグロメレーションに関する経済学的研究
第5章 地域労働市場の需給ミスマッチと外国人労働者の動向
―日系人、新日系人及び技能実習生をめぐって―
第6章 定住外国人の子どもの高校進学についての経済学的研究
第IV部 制度・政策提言
第7章 国際的な人の移動の潜在力
―多文化共創社会への視座―
■以下は佐伯康考さんのプロフィールです。博士(経済学)。
東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室特任助教などを経て、大阪大学共創機構社学共創本部特任助教。外国人労働者を中心とした国際的な人の移動について研究を行っている。共編著に『街に拓く大学―大阪大学の社学共創―』(大阪大学出版会, 2019)、『グローバルな公共倫理とソーシャル・イノベーション』(金子書房, 2018)。(移民政策学会国際交流委員・社会連携委員,多文化研理事)
■おそらく、経済学と統計学のアプローチに関しては、万城目正雄さんから書評をいただいたほうが的確と思いますので、お願いいたします。現在、万城目さんは三重県に出張中で、次々と講演にお忙しいので、9月ごろひと段落したら、よろしくお願いいたします。
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川村千鶴子