【多読味読<41>:小笠原理恵著『多文化共生の医療社会学ー中国帰国者の語りから考える日本のマイノリティ・ヘルス』Minority Health 大阪大学出版会 2019年1月 251頁】
多文化研のみなさま
No one will be left behind!
外国人労働者受入を拡大するなか、日本の医療は生活者たる彼らにどのように向き合っていくのでしょうか。本書は、詳細な病院調査と中国帰国者の日常診療から問い直しておられます。
外国人労働者受入れ拡大のなか、日本の保健医療が、生活者たる彼ら・彼女らにいかに向きあい、健康を支えていくのか。
多文化共生基本法をつくる際には、この健康格差にも向き合ってほしいものです。
2017年の博士学位論文を基盤とし、特に中国帰国者に焦点を当てた本書は、日本におけるマイノリティ人口の動態から始まり、日本の社会保障制度の歴史と変遷をきちんと整理して論文のベースにしています。日本の社会保障制度を学ぶ本でもあります。
病院職員を対象とした独自の丹念な調査がある力作です。
そして中国帰国者(帰国を果した中国残留孤児とその家族)の日常診療のオーラル・ヒストリーから、マイノリティ住民に対するこれまでの日本の医療のあり方を鋭く問いています。医療者、医療通訳者、行政担当者そして人権を守る支援者たちの共創の記録とも言えますね。

目次をご紹介します。
第1章 日本のマイノリティ・ヘルス
第2章 統計からみる日本のマイノリティ人口の動態
第3章 外国籍住民にまつわる社会保障制度の変遷
第4章 マイノリティ・ヘルスに関する研究の動向―欧米と日本
第5章 医療現場におけるマイノリティ患者対応
第6章 中国帰国者の概要
第7章 中国帰国者の受療の語り
第8章 中国帰国者の語りから考える日本の医療
そして著者/小笠原理恵さんのプロフィールです。
大阪大学大学院人間科学研究科助教(大阪大学ユネスコチェアGlobal Health and Education担当)、医療通訳士協議会事務局長、大阪大学医学部附属病院国際医療センター運営委員。博士(人間科学)。
ご専門は国際保健、多文化共生、医療社会学。1993年徳間ジャパンコミュニケーションズ株式会社宣伝部、
1996年北京中央戯劇学院・北京語言学院(現・北京語言文化大学)語学留学、
1998年北京電揚広告有限公司、1999年上海International SOS有限公司を経て渡米。
米国アリゾナ州で看護学を学んだ後、2004年から中国上海市の外資系医療機関ワールドリンク・メディカル&デンタルセンター(現・パークウェイヘルス・メディカルセンター)でクリニック・マネージャーを務め、世界各国から集まった医療従事者とともに、主に上海在住外国人に対する医療サービスの提供に従事。
2011年から大阪大学大学院人間科学研究科博士課程に在籍し、言語や文化の異なる環境下における人びとの保健医療に関する研究に取り組む。
2017年博士後期課程修了、特任研究員を経て2018年より現職。
私も「健康格差」をテーマに何度か講演したことがございます。
「国の平均値の中に埋もれてしまったデータを掘り起こし、健康格差の存在に光をあてはじめた国が増えています。」
CLOSING THE GAP: Policy into practice on social determinants of health.
あらためて健康格差が世界中のすべての国や地域で問題になっていることを痛感いたしました。
貫隆夫先生、貴重な本書をご恵贈いただきありがとうございました。
多文化研の皆様と共有回覧しながら、宝物にしたいと思います。
感謝を込めて。
川村千鶴子🐢
Emeritus Prof. Dr. Chizuko Kawamura
Daito Bunka University