【多読味読<23>:椙本歩美著『森を守るのは誰か―フィリピンの参加型森林政策と地域社会―』新泉社2018年7月発行、330頁】
何という美しい田園光景でしょう!写真を撮影したのは、著者の椙本歩美さん(多文化研理事)。学部生のころから、いつも元気で明るくて、フィリピンに調査や支援に出かけていました。
![椙本[森]](https://tabunkaken.com/wp-content/uploads/2019/02/e6a499e69cacefbcbbe6a3aeefbcbd.jpg)
森を守るのは誰か 椙本歩美(著/文) – 新泉社
あれから15年が経過し、このような美しく立派な本を上梓されて感無量です。『異文化間介護―誰が介護を担うのか』(明石書店)でご一緒したのもかなり昔ですね。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程に進み、国際森林環境学、フィリピン地域研究を専門にしました。日本学術振興会の特別研究員となり、研究分析の成果が、博士論文として結実しました。博士(農学)の学位を取得。森林環境学のメカニズムを解いた博士論文が、誰が読んでも感動する最良の一冊に生まれ変わりました。 歩美さんは、森林政策と国際協力の実践者です。国際教養大学助教(秋田県)から、定期的な海外出張をこなし、全授業を英語で教授し、留学生と農家との「戦争と平和を考える交流」に尽力(『いのちに国境はない』ほか)されました。
昨年からマーガレット・サッチャー財団特別研究奨励生となってバッキンガム大学客員研究員。英国に滞在しながら、多文化研理事として活躍くださっています。歩美さん、おめでとうございます!!!北アイルランドに調査にいかれるなど、相変わらず多文化共創アクティブ・ラーニングの最先端ですね。「守る」という文字が、雨?、汗?、それとも涙なのか、水滴にデザインされて、今日は家族一同で美しい表紙に見惚れました。
「国家 vs 住民」「政策と現場のズレ」「保護 vs 利用」「住民間の利害対立」。
国際機関の援助のもと、途上国で進められている住民参加型資源管理政策をめぐって指摘される問題群。森と農地が一体的に利用されているルソン島中部の村落で、二項対立では説明できない多様な森林管理の実態を見つめ、現場レベルで独自に立ち現れる政策実践の可能性を考える。
「フィリピンは1970年代から住民参加型森林政策を開始し、東南アジアのなかでも制度化が進む国の一つである。森林回復や地域住民の生活向上などの評価がある一方で、国家が住民に森林の権利を与えることは、住民や森林に対する国家統治の継続をより見えにくくし、森をめぐる国家と住民の対立構図も不可視化しているという批判がある。
途上国の森林保全に関して、各国政府、援助機関、研究者は、有効な参加型資源管理のあり方を模索してきた。住民参加を進めるための制度の枠組みは検討が重ねられてきたが、政策の意図と異なる現場レベルでの森林管理の実践は問題とみなされ、現場で独自の制度が生み出される仕組みについてはあまり議論されてこなかった。本書の目的は、現場における制度生成の仕組みを分析する概念枠組みを提示し、住民参加型政策が地域社会に及ぼす影響について新たな論点を提示することである。」(著者のことばから)
農村生活の生き生きとしたエッセイ、読みふけりました。
多文化研のみなさま、必読です。こちらからどうぞ。
Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4787718118/
版元ドットコム https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784787718112
経緯と謝辞を書かれた「あとがき」、ご丁寧にありがとうございました。
川村千鶴子