(第13回) 第二言語の習得
多言語と多文化の共生を
<『都政新報』2020年8月25日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(国際基督教大学客員准教授 藤田ラウンド幸世)
言語の習得を考える上で、まず言語の四技能である「聞く」「話す」「読む」「書く」を身に付ける順序と、乳幼児期・子ども期の発達段階に目を向けてみたい。「話しことば」は、言語の音を聞くことから始まり、音の違いを聞き取り、聞いた音を自分自身で発音をして、相手話者の言っていることを理解した上で自分の考えを話す、一連のプロセスに従って発達する。言語形成期前期と言われる0歳から7歳くらいに、家族や身の回りのヒトたちとの相互作用を通して、聞いて話すことを十分に発達させることが重要である。
言語形成期後期の8歳から13歳くらいには、話せるようになった内容を今度は「書きことば」で表現する段階に移る。日本語は漢字を書くことだけが難しいのではなく、読み方も難しい。漢字が自由に読めないと、漢字の語彙を文中に組み入れ、表現するまでが一苦労である。「読む」ことと「書く」ことのつながり、また、子どもが話すように書けるまでには、様々な学習の工夫と時間が必要だということに大人は気づく必要がある。この時期は、自分が誰か、どこに帰属しているのか、友達との関係性や社会の中の自分の立ち位置が気になり、アイデンティティーが形成される時期でもある。
日本で生まれ、義務教育を受けると、子どもの第一言語は日本語となるだろう。次に、この第一言語に関わる留意点を二つ挙げたい。一つは、日本で生まれ育ち、日本語を第一言語とする子どもの中には、国籍が日本ではない子どもたちも含まれることである。言語は国籍と直結するわけではなく、在日の朝鮮半島をルーツとする子どもたちの第一言語が日本語であっても驚くことではない。また、国際結婚や移民の家庭では第一言語といっても一つだけではなく、家庭内の家族とのコミュニケーションを通して二つの話しことばのバイリンガルとなるかもしれない。しかし、必ずしも全員がバイリンガルになるわけではない。乳幼児期と子ども期を通して、家庭内の親と子どもがどのくらい話すのか、その時間と内容(語彙数)などの環境がないとことばは育たないからである。親の第一言語が日本語ではなく、仕事に忙しく家族間で話すことが少ないと、子どもは日本社会の保育園や幼稚園で日本語を第一言語として習得する可能性もある。
第一言語を身に付けてから、家族と共に日本に移住をした学齢期の子どもの場合は、親の言語選択や学校選択、実際の学校環境が第二言語となる日本語の習得に大きく影響するだろう。特に、教育現場での「学習言語」は年齢に応じて増えるので、先に挙げた言語形成期前期と後期とでは第二言語としての日本語を習得するハードルの高さは違う。親の都合で移住をした子どもがゼロから日本語を学ぶ、つまり、話しことばの基礎がないままに、書きことばが必要な学習の現場に放り込まれるその姿を想像してほしい。

21世紀の日本社会には、二言語以上のことばを日常で使う個人や家族、様々な言語の組み合わせのバイリンガルとマルチリンガルがいる。日本社会で生きる上で日本語は必要だが、子どものルーツに関わる文化や言語も家族との絆、自分自身の根っことなるアイデンティティー醸成の上で不可欠である。2019年の日本の在留外国人数は、アジア出身者が圧倒的に多数で、南米出身者と合わせると90%を超える。日本社会は、このような背景を持つ子どもが日本語と親のルーツのバイリンガル・バイカルチュラルとして育つ、多言語と多文化が共生できる空間を共創できるだろうか。豊かなことばと複数の文化を理解する「日本語」話者を育てることは、日本の活性化にもつながるという発想が必要ではないだろうか。
一人ひとりの子どもが、子ども期に言語の四技能を十分に身に付け、使うことができるようになるかは、 その子どもの一生に関わるだけではなく、社会の資本を育てるという社会の問題でもあるといっても過言ではないだろう。
(国際基督教大学客員准教授 藤田ラウンド幸世)