多味多読<71> 加藤丈太郎「『にっぽんのものづくり』をベトナム人特定技能人材と共に―有限会社小穴鋳造所(山梨県甲府市)の取り組みから―」

【多味多読<71> 加藤丈太郎「『にっぽんのものづくり』をベトナム人特定技能人材と共に―有限会社小穴鋳造所(山梨県甲府市)の取り組みから―」『国際人流』2021年2月号】

多文化研の皆様

大阪大学の佐伯です、本日は多文化社会研究会が2020年4月から12回シリーズで担当している公益財団法人入管協会『国際人流』の連載企画「人権に根ざす共創・協働の「安心の居場所」」に早稲田大学の加藤丈太郎先生がご執筆された最新号についてご紹介いたします。

———–以下、紹介————-
 第11回目となる今回は、山梨県甲府市の有限会社小穴鋳造所における技能実習生と特定技能人材の取り組みについて考察が行われている。鋳物業は1,500度程度の熱で鉄を溶かすなどの作業が行われるため夏場は特に熱く、重い鉄の運搬などで体力を必要とする仕事であり、求人をかけても人がなかなか集まらず、離職率も高いという課題を抱えていた。そこで2007年から技能実習生の受け入れを開始し、現在は全従業員11名のうち日本人は4名で、ベトナム出身の技能実習生4名と特定技能3名が重要な役割を果たしている。

まず印象的だったのは、小穴鋳造所の小穴明彦社長が毎年ベトナムを訪問し、技能実習生の両親だけでなく、配偶者と配偶者の両親も訪問して感謝の気持ちを伝えるなど、技能実習生の家族を非常に大切にしていることである。本稿で紹介されているファップ氏が2015年に同社での3年間の技能実習を修了してベトナムに帰国した後も関係性が続き、特定技能制度が創設された2020年3月に特定技能人材として再来日することになったのは、技能実習修了から5年を経てなお、両者が強い信頼関係で結ばれていたことの証左であろう。本稿でも紹介されている通り、特定技能人材の転職・地方から都市部への流出を恐れ、様子見をする企業も少なくない。しかし、同社のような職場から人材が流出するリスクは低いと思われ、制度設計も重要であるが、経営者の人柄や企業風土こそが人材定着の重要な規定要因であることを本稿は再認識させてくれる。

 またベトナムで生活を送る家族のことを大切に思う小穴社長だからこそ、「ベトナムの家族を大切にするために、(技能実習と特定技能の)10年間で学んだ技術を日本ではなく、ベトナムで活かして欲しい」という思いに至っていることは示唆に富んでいる。小穴社長が採用してきた人材の大半が自らの世帯を既に持っていることもあり、「家族のため、子どものために頑張る」という明確な動機が同社のスタッフには存在する。加藤先生が原稿内でも述べられている通り、特定技能2号の業種拡大についての議論も行われる中で、来日する技能実習生と特定技能人材だけでなく、彼ら・彼女らの家族全体にとって幸福な制度設計とは何かを本稿は問いかけている。

本稿を通じ、多文化研内外でさらに議論が深まることを確信し、是非とも皆様にご一読いただきたい。