(第5回)日本留学生の就職①
働きやすい環境を
<『都政新報』2020年7月21日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(東京工業大学環境・社会理工学院准教授 佐藤由利子)
生産年齢人口の減少や経済のグローバル化を受け、外国人材の雇用が広がっている。中でも注目されているのが、日本で学んだ留学生の採用である。2008年に開始された「留学生30万人計画」では「高度人材受け入れとも連携させながら、国・地域・分野などに留意しつつ、優秀な留学生を戦略的に獲得していく」ことがうたわれ、安倍政権の成長戦略でも、留学生の日本就職が、日本経済の生産性、イノベーションを向上し、海外販路開拓につながるものとして推進されてきた。
例えば「日本再興戦略2016」には、「外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上」という目標が示され、成長戦略ポータルサイトの「外国人材の活躍推進」(20年4月更新)には、「外国人留学生の呼び込みから就職に至るまで一貫した対応を行うとともに、地域社会の重要な構成員として、国籍等にかかわらず外国人が暮らしやすい地域社会をつくる」という方向性が示されている。
留学生30万人の目標は19年に達成されたが、留学生の日本での就職は、どのような状況になっているのだろうか?

出典:法務省データに基づき著者作成
図は、06年以降の日本で就職した留学生数の推移を示している。日本で就職する留学生は、リーマンショックにより一時落ち込んだものの、11年以降増加に転じ、18年には2.6万人と、06年の3.1倍に上っている。日本語習得に強みを有する中国人留学生のみならず、最近はベトナム人(18年就職者の20.2%)、ネパール人(同11.3%)など、非漢字圏出身で日本に就職する者も増加している。
しかし、日本企業に就職した留学生の定着率は必ずしも高くない。14年に経済産業省が新日本有限責任監査法人に委託して行った調査では、日本企業で働く元留学生で、今の職場で「できるだけ長く働きたい」者は35%にとどまり、10年程度が8%、5年程度が23%、3年以内が12%という結果であった。外国人社員の定着を妨げる要因としては、▽年功序列制が昇進昇給の遅さにつながっていること▽残業が多いこと▽外国人社員に対する配慮が足りないことなどが指摘されている。
それでは、外国人社員には、どんな配慮が必要なのだろうか?
厚生労働省の委託で全国民営職業紹介事業協会が外国人材検討部会(筆者も委員として参加)を組織して作成した『外国人材の職業紹介に関する基礎知識』(19年)には、外国人材定着のためのヒントとして、次の点が挙げられている。
○簡単に、わかりやすく「やさしい日本語」で話す
○空気を読まなければいけないような、遠回しな言い方を避ける
○外国人が日本を理解するというより、「お互いが理解し合う」ようにする
○「○○人だから」と一般化して理解せず、一個人として尊重する
○キャリアパスを明確化する
○メンター制度も有効
留学生は日本語ができ、日本文化を理解する人が多いという利点があるが、日本人ほど日本語ができるわけではないし、「空気を読む」といった日本独特のコミュニケーションに必ずしも習熟していない。そのような彼らのハンディに配慮するとともに、こちらも相手の文化を理解するという歩み寄りが重要である。
外国人社員を採用して海外売り上げを伸ばしたある中堅企業では、元スチュワーデスの方が外国人社員のメンター役として活躍していた。語学力に加え、彼らの国を訪問し、文化的背景を理解している点を買われたそうである。
多文化共創(Multicultural Synergy)は、異なる文化背景の人たちが協働し、互いの強みを生かし、相乗効果を発揮する状態を指している。コロナ禍の中で雇用情勢は一時的に悪化しているが、少子高齢化に伴う人手不足や企業の海外展開の中で、外国人の雇用は今後確実に増加していく。留学生には日本人と他の外国人との橋渡し役としての役割も期待できるところ、彼らを大切な人材として扱い、働きやすい環境を整えることが重要である。
(東京工業大学環境・社会理工学院准教授 佐藤由利子)