(第8回) 技能実習生
住民の一員、地域産業の
担い手として
<『都政新報』2020年8月4日008面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(東海大学教養学部人間環境学科准教授 万城目正雄)
技能実習生(以下、実習生)は、出入国及び難民認定法が定める「技能実習」の在留資格をもって、日本に入国・在留する外国人である。雇用契約に基づき、中小製造業等の生産現場で就労しながら実習(インターンシップ)を行う。期間は最長5年間。厚生労働省の調べ(2019年10月末現在)によると、約38万人の実習生がアジア諸国から来日し、特に地方で興隆する地場産業によって受け入れられている。
実習生の地域社会における存在感が高まる中、近年、地方公共団体が多文化共生政策や地方創生政策の一環として、実習生を地域住民の一員、地域産業の担い手として支援する各地の取り組みが報告されるようになっている。

清掃当番は自治会活動の一環として回覧板で順番が回ってくる。
写真提供 ㈱三静工業(静岡県)
例えば、地場産業である水産加工業に従事する実習生が約400人在留するという北海道紋別市では、18年5月に市が開設した国際交流サロンが実習生と市民との交流の拠点になっているという。茶道・華道教室や料理教室、実習生夏の交流会(運動会)、実習生に対する日本語能力試験に向けた勉強会の開催などを通じて、実習生と市民が交流する機会が創出されている。(『広報もんべつ』19年7月)。キューポラの街として知られる埼玉県川口市では鋳物業等で受け入れられてきた実習生を、地方創生政策の一環として支援する取り組みが進められている。16年3月には「川口市まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定され、地域経済基盤づくりのために、実習生へのサポートによる持続可能なパートナーシップの維持・増進を図り、市内製造業等を支える実習生への支援を行う取り組みが進められている。岡山県美作市においては、15年4月にベトナム国立ダナン大学と相互協力協定を締結するなど、特に国際貢献、国際交流施策の一環として、市がみまさか商工会等とも連携し、ベトナム人を中心とした実習生の受け入れを推進する取り組みが「美作市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき進められているという。
中小企業を訪れて、企業関係者や実習生に会うと、自治会活動、地域のお祭り、サッカー、マラソン大会等のスポーツイベント、成人式等の行事に実習生が参加することを通じて地域住民と実習生が交流しているという話題に接することも多い。実習生は、地方都市の中でも中小企業の工場が立地する郊外で日常生活を送っていることの方が多い。そのため、都会で暮らしていると、実習生を身近な存在と認識する機会は多くはないかもしれない。しかしながら、地方の取り組みに目を向けてみると、日本の中小企業や地域社会は実習生の受け入れを通じて、異なる言語、文化、宗教を持つアジア諸国の若者と接し、外国人とともに働き、生活する経験を積み重ね、熱意と努力によって、異文化接触に伴う問題を克服しながら、この事業に取り組んでいる実態も広がっている。
技能実習制度は、日本における専門的・技術的分野以外の外国人労働者の受け入れを可能とするプログラムとして、様々な課題を抱えながらも日本の地域社会に根付き、今や日本で就労する外国人の4人に1人が実習生となっている。いわゆる非熟練労働者の受け入れは、試行錯誤を重ねながら政策を遂行している諸外国の実情をみても、処方箋が見つけにくい、一筋縄ではいかない問題ともいえそうだ。
日本では、人手不足の解決策として、19年4月に特定技能制度に基づく新しい外国人労働者の受け入れがスタートした。しかしながら、その数はコロナショックの影響も加わり、伸び悩んでいる。この様子は、バブル経済期に立案された技能実習制度が、バブル崩壊直後にスタートした1993年当時の姿と重なる。
実習生が地域社会、地域産業の中で、大きな役割を果たすと認識されるようになり、地方公共団体、地域住民も加わり、その支援の輪が広がっている。地域住民との交流は、実習生に仕事では得ることができない、心のよりどころとなる経験を提供する。四半世紀以上の年月をかけて、中小企業や地域社会が試行錯誤を繰り返しながら積み重ねてきた実習生受け入れの経験とノウハウが生かされる形で、多文化共創に向けた取り組みをどのように進めるのか、じっくりと検討する視点が大切ではないだろうか。
(東海大学教養学部人間環境学科准教授 万城目正雄)