(第21回) 難民
コロナ禍における難民と生活困窮
<『都政新報』2020年9月25日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(認定NPO法人難民支援協会代表理事 石川えり)
「シリアに暮らしていたが、自宅と勤務先が爆撃された」「軍事政権に対抗し、民主化運動を支援する学者だったが自身も逮捕されそうになった」「少数民族で宗教も多数派と異なる政府から国籍を与えられず、強制労働に従事させられた」など様々な理由から日本へ逃れ、保護を求める難民がいる。昨年、日本で難民申請をした数は約1万人、うち難民として認定されたのは44人だった。ドイツでは5万人、アメリカでは4万人が認定される中、この数はあまりに少ないと考えている。
原因の一つに、難民認定の実務を出入国在留管理庁(以下、入管)が担っているため、難民を「保護する(助ける)」より、「管理する(取り締まる)」という視点が強いことが考えられる。さらにその背景には、政治的意思の不在とそれを支える世論の声の弱さがあるだろう。
「認定NPO法人難民支援協会」は1999年に設立され、20年間にわたり東京都内に事務所を構えて日本に逃れた難民への支援、難民とともに生きられる社会をつくるための認知啓発や政策提といった総合的な活動を行ってきた。関わってきた難民の数は70カ国・7千人に上る。一人ひとりの難民に向き合いできる限りの支援をしてきたが、すべての人に十分な支援ができているわけではなく、悩みを抱えながらも活動を行っている。

難民は入管で難民申請を行い、その審査に平均3年を要する。その間、多くが東京かその近郊の県で暮らしている。政府からの支援金を受給するのは350人程度であり、多くが仕事を持ち、自立して働きながら結果を待っている。しかし、多くの難民は日本で認定されないが、迫害のおそれがあるため帰国もかなわず、再度の難民申請をした場合には在留資格が更新されず非正規滞在となり、仮放免の状態で就労許可もなく公的支援が非常に限定的になるなど、より困難な状況に置かれている。
そのような脆弱な状況がコロナ禍により影響を受けている。ここでは、仮放免など在留資格がない場合について説明したい。前述通り、就労もできず、国民健康保険にも加入できず、公的な生活支援もほぼ利用できないために、周囲の友人たちから数千円ずつお金を借りたり、海外の友人から送金してもらうなどしてこれまで何とか生活していたという人が少なくないが、感染拡大の影響で支えてくれていた人の生活も時短や失業等で厳しくなり、一切の収入が途絶えてしまうなどの影響が出ている。「もう食糧が尽きてしまい、お米がわずかにあるだけ」「昨日から何も食べていない」「失業して家も失ってしまった」といった切実な相談も寄せられている。迫害をおそれて帰国もできない中、住民登録がされていない仮放免の成人の難民申請者は特別定額給付金の支給から漏れており、さらに困窮を深めている。
このような状況に対して、貧困に取り組む団体、そして移住者を支援する団体が寄付や助成金から一人ひとりへ緊急の現金給付を行った。例えば「移住者と連帯する全国ネットワーク」(以下、移住連)は、今年の5月から移民・難民緊急支援基金を立ち上げ、8月末の終了までに民間の寄付・助成金から約4800万円を集めて1200人以上へ支援を提供した。受給者からは困窮状況の中で助けになったという切実な声が寄せられている。しかし、移住連自身、この基金は一時的なものであり、「これからこうした方々が支援に頼らずに最低限の生活をするためには、政府や地方自治体による支援や制度自体の改善が必要」と訴えている。
難民を含む移住者が安心して暮らせることが社会としても必要であり、そのためには公的な支えが必要である。彼らを支えていた共助の力も弱くなった現在、それはより切実になっている。
この文書をお読みの皆さまには、ぜひ、SDG’sの理念にもある「だれも取り残さない」社会を作るための、公助のあり方、仕組みについて共に考えていただきたい。
(認定NPO法人難民支援協会代表理事 石川えり)