(第4回)日本語学校の留学生
ウィズコロナ時代の価値を探って
<『都政新報』2020年7月17日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban/
(カイ日本語スクール代表 山本弘子)
JR新大久保駅から徒歩5分ほどのビルの中にあるカイ日本語スクールは、設立33年目の法務省告示校である。在籍者の大半は留学生だが、スウェーデン、イタリア、スペイン、米国などの欧米圏出身者が7割近くを占め、その他、台湾はじめアジア諸国など、常時40カ国前後からの学生が在籍している。
彼らの日本留学の理由は何かと言えば、アニメ・ゲームなどをきっかけに子ども時代から育んだ日本への興味・関心である。鉄腕アトムのロボットと人間の共存ビジョンに感動し、ロボット工学を修め来日したメキシコ人エンジニアや、スイスの銀行を辞めて日本のゲーム関連の企業で働きたいと来日した金融ウーマンなど、優秀かつユニークな学習者が多い。
とは言え、世界の留学の中心は北米や英国はじめ欧米(最近では中国も)などで、日本留学は留学市場の中ではマイナーな存在である。その理由の一つは日本語の障壁の高さだ。文字が3種類あり、文法体系も仲間の少ない言語として、難関言語の一つに数えられている。にもかかわらず、日本に興味を持ち、果敢に日本語に挑もうと来日する外国人は日本の宝だといつも感じている。
そんな彼らに留学の価値を最大限提供するにはどうしたらよいか、さまざまな方法を考える中、教室を飛び出した授業ができないかと考えた教師が新大久保商店街のゴミ問題を取り上げ、学生なりの課題解決法を考えた結果を商店街関係者にプレゼンしたところ、思いがけないほど喜ばれ、感謝された。つたない試みではあったが、留学生でも貢献できることがあるという確信を得て、
CBL(Community Based Learning)という地域の課題を共に解決する学習プログラムの実践を開始。はじめの協働先は、大久保図書館の絵本読み聞かせ活動であった。

この活動の特徴は、ゴールにたどりつくまでのさまざまなコミュニケーション上の体験を学びの対象とすることである。文化や習慣の違いが誤解を生むことは知られているが、それが実際の場でどう表れるか、また、どう対応すべきかは、体験しなければわからない。
実施後の振り返りで、学生たちはもちろんだが、協働相手の日本人にも気づきや学びが起きたことがわかった。日本語コミュニケーションの自己観察と、その結果を客観的に振り返る技術を身に付けることが、今後の共生社会に向けて我々日本語教育の現場がやるべきことではないかと、数年間にわたる実践を通して気づかされた。さらに、本格的な体験学習を新大久保商店街の武田一義事務局長の協力を得て推し進め始めた矢先の今春、新型コロナウイルスの感染拡大が起き、全ての活動を一時停止せざるを得なくなってしまった。
授業そのものは既に数年前に1人1台タブレットを導入していたおかげで、緊急事態宣言発出後は全面オンライン授業に切り替え、通常の学習はほぼ切れ目なく進めることができたのだが、本来の「語学留学」の意義について改めて見直さざるを得ない局面を迎えている。オンラインでいいなら海外からでも受けられる。実際、母国からオンライン授業を受けている学生も出始めている。そうなると、わざわざ留学する意義をどこに見いだしたらいいのだろうか。
それに対する答えの一つがCBL活動になると考えている。今はいったん停止しているCBLプログラムだが、コロナ下の新大久保商店街の課題を、まずはZOOMでの打ち合わせを重ねながら一緒に考えることから始めてみようと思っている。安心・安全な環境を作りながら、日本人と直接接することでしか学べない﹁体験﹂を最大の価値として提供すること。その先に、多文化共創の姿がほのかにでも見えたらなどと、妄想を膨らませているところである。もっとも、コロナ禍による学生減少を乗り切ることが先決ではあるのだが。
(カイ日本語スクール代表 山本弘子)