(第16回) 高齢者の介護
アフターコロナを見据えて
<『都政新報』2020年9月4日006面より・都政新報社>
https://www.toseishimpo.co.jp/denshiban
(関西医科大学看護学部准教授 李錦純)
2018年末の在留外国人統計によると、日本で暮らす外国人総数は273万人であり、そのうち65歳以上の高齢者は17万6千人、高齢化率は6・6%である。在留期間に制限がない「永住者」及び「特別永住者」の在留資格を有する者は109万人に上り、将来的にはさらなる外国人高齢者の増加が見込まれる。65歳以上の外国人の72%が、戦後より長期在住している在日コリアン(韓国及び朝鮮籍者)であるが、近年はその割合は減少傾向であり、多国籍化が進んでいる。
高齢者の増加により、外国人の医療や介護需要も増加している。在留外国人に対する介護保険制度の適用は、適法に3カ月を超えて在留する外国人で住所を有する人となっている。外国人の介護保険サービス利用者が増加しているものの、介護現場では意思疎通の困難や生活習慣・価値観の相違、経済的問題、社会保障制度の理解不足、母国文化への回帰など、様々なニーズと課題が複合的に顕在化しており、対応が求められている。
居宅サービスは生活に深く入り込むことから、その人の生育歴や文化、そして価値観が反映されやすい。例を挙げると、在日コリアン高齢者は儒教文化を背景とした長幼の序を順守する傾向があり、デイサービス(通所介護)で食事の際には年長の利用者より先に箸をつけることはない。在日米国人の高齢者は、お風呂に入れない状況を鑑み善意で導入した訪問入浴介護サービスについて、人前で裸にされたと屈辱的に受け取られてしまうこともある。他にも、認知症の症状進行により、日本語を忘れてほぼ母国語に回帰してしまい、周囲と意思疎通が図れなくなることがある。

関西にある在日コリアン高齢者が多く利用しているデイサービス事業所の様子
(筆者撮影)
在日コリアンの民族性や文化に配慮したデイサービス事業所や訪問介護事業所が、集住地域である関西を中心に支援を展開している。同国人が集い母国の言葉と文化を享受できる安心の居場所として、包括的な生活支援の拠点として、地域の希少な社会資源として役割を発揮している。
当該地域で働く在日コリアン2世のケアマネジャーによると、①同文化・言語の接触による心の安寧②介護保険制度の理解を促す持続的工夫③多職種連携による共通理解とケアの統一④言葉だけによらないコミュニケーションツールの工夫⑤通訳対応可能な社会資源の発掘と活用⑥特有の葬送儀礼文化に対する理解が支援上重要であるという。加えて、出身国在住の家族・親族との絆、清潔への捉え方、経済的配慮、死生観の違いにも留意する必要があるという。
新型コロナウイルスの感染拡大による世界的なパンデミックは、今後どのように変貌し終息しうるのか、予測がつかない状況である。国内の高齢者施設で、クラスターが発生したことは記憶に新しい。介護分野におけるコロナ禍の影響は、施設での面会禁止や一部デイサービス事業所の休止はあっても、訪問系サービスをはじめとした居宅サービス事業所は感染の脅威に晒されながらも休むことなく運営している。特別低額給付金の手続きに当たっては、外国人高齢者からケアマネジャーや介護職員に手続きに対する支援の要望が急増したという。
関西のある在日コリアン集住地域には、在日外国人対応のデイサービス事業所や訪問介護事業所が複数ある。コロナ禍で一時的に休止した事業所の利用者の受け皿として別の事業所が支援するなど、協力体制をとっている。ステイホームは、要介護高齢者にとってフレイルの発症リスクを高め、生活機能を全般的に衰えさせる。地域の介護事業所による連携・協働体制のもと、感染症ガイドラインの共有と徹底により、外国人への介護支援が継ぎ目なく提供されており、二次的健康被害の予防につながっている。
不確実性の時代において、ヒトとモノの流れが遮断された今だからこそ、介護分野では特に分断や閉鎖ではなく協調と協働をより意識した行動が必要である。その基盤となる人と人とのつながり、信頼関係の構築こそが、ウイルスという共通の敵に対峙する人類の武器である。アフターコロナを見据えて、社会にとって普遍的な価値とは何かを問い直す機会ととらえ、多文化共創社会の介護の在り方を模索していきたい。
(関西医科大学看護学部准教授 李錦純)