xi) 高齢者 介護・看取り・弔い

多文化社会における地域在住高齢者の医療・介護をどう支えるか

李 錦純
(関西医科大学看護学部大学院看護学研究科)

●在日外国人の高齢化はオールドカマーだけの話ではない
「国際人口移動の活発化に伴い、移住先で長期定住永住する人々も増加し、出身国以外の国で高齢期を迎えた移民数は、先進国や開発途上国にかかわらず全世界的な現象となっています。在留外国人統計(2017 年末)では、在日外国人総数は約190 か国・256 万人、65 歳以上の高齢者は約90 か国・17 万人であり、共に過去最高を更新しました。
65 歳以上の在日外国人の圧倒的多数を占めるのは、「韓国・朝鮮」籍高齢者(以下、在日コリアン高齢者)ですが、それに次ぐ「中国」籍高齢者も過去20 年間で2 倍に増加しており、その他の国籍(出身地)の高齢者人口も増加してきています。数年前まで外国人高齢者の90 %以上を占めていた在日コリアンは、その実数自体は増えていても、相対的な構成比は低下してきています。在留期間に制限がない一般永住者特別永住者数は100 万人を越えており、今後一層、高齢社会の多様化多国籍化多文化化が進むと見込まれます。

●在日外国人の高齢者介護の現状
在日外国人に対する介護保険制度の適用は、平成24 年7 月9 日施行の住民台帳基本法の改正により、適法に3か月を越えて在留する外国人で住所を有する人となりました。制度設計上は適用要件が緩和されましたが、実際の介護保険サービス運用においては、識字の問題や生活習慣・文化的背景の相違、経済的問題、そして母国文化への回帰等、様々な問題が生じています。
兵庫県在住の在日外国人は約10 万5 千人、その内約1 万7 千人が65 歳以上の高齢者であり、ほとんどが在日コリアンです。大阪、東京に次いで外国人の高齢者が多く暮らしている地域です。大阪府や兵庫県の在日コリアン集住地域を中心に、在日コリアン二世・三世等により、民族性に配慮した介護保険事業所が設立され、支援活動を展開していますが、訪問介護や通所介護事業が大半のため、認知症や医療的ケア、終末期ケア、そして看取りケアなど、高齢者ならではの要介護の重度化や健康状態の重症化に対応しきれない現状があります。家族による介護の限界、そして外国人対応が難しいという理由から、入所がスムーズにできないケースもあります。
介護保険制度は、国民の共同連帯の理念に基づき、加齢に伴う疾病等により要介護状態となっても、尊厳を保持し、自立した日常生活を営むことができるよう、高齢者の介護を社会全体で支えるための制度です。日本で暮らす外国人の高齢者は、多様な言語、生活文化、生活歴、家族の介護力、心身の健康状態、価値観をもつ地域社会の構成員であると認識し、その尊厳を守り、自立した社会生活が営めるように、支援体制の輪を広げていくことが望まれます。
●高齢社会とその先
高齢社会の先には多死社会があり、年間130 万人の死亡者数となっている昨今、終末期ケアや看取りケアの重要性は増すばかりです。日本では約80 %が病院で死を迎えますが、近年は、病院以外の場所での死亡が微増傾向にあり、それは、自宅、老人ホーム、介護老人保健施設の順となっています。
終末期ケアにおいては、国(地域)や文化を問わず、最期までその人らしい人生を送れるようサポートすることが最も重要であり、可能な限り望みや願望を叶えてあげることが最善のケアとなります。その人らしさを支えるということは、その人らしさを形成している文化的背景、価値観、信念、アイデンティティを日々の関わりの中からとらえることから始まります。在日外国人の終末期ケア・看取りケアにおいては、葬送儀礼やお墓、先祖祭祀等の伝統的な弔いの儀式も含めて、その国(地域)・民族・宗教により創り出された独特の文化と死生観があることを理解し、本人だけでなく、家族の死生観や宗教観も深く反映されることもふまえて対応する必要があります。
近年は、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)という言葉が広く用いられるようになり、関心が高まっています。ACP とは、終末期ケアにかかわる話し合いのプロセス全てを指し、療養場所の選定を含む患者の望む生活を話し合い、支える取り組みともいわれています。人生の最終段階において、多様化が進む在日外国人の高齢者の自己決定を尊重し実現するための支援体制の構築は、今後ますます重要な課題となるでしょう。

参考文献
*李節子(編著),李錦純他(2018)『在日外国人の健康支援と医療通訳―誰一人取り残さないために―』,杏林書院
<プロフィール>
李 錦純(り くんすん)
関西医科大学看護学部・大学院看護学研究科准教授。人間科学博士(大阪大学)。看護師、保健師、介護支援専門員。専門は在宅看護学、国際看護学、老年看護学。近大姫路大学看護学部(現:姫路大学)講師・准教授、兵庫県立大学看護学部准教授を経て、2018 年4 月~現職。
姫路市人権啓発センター運営推進会議委員、国際地域看護研究会代表等を務めている。多様な背景をもつ人々が、地域社会で安心して豊かな老後を過ごせる多文化共生社会を目指して、大学、行政、市民団体、地域の介護保険事業所などで広く研究活動を展開している。

(多文化社会研究会「30周年記念誌」より転載)