「クレア(自治体国際化協会)連携企画」

ニューノーマル時代のダイバーシティ・マネジメントを考える

東京未来大学モチベーション行動科学科教授 郭 潔蓉

1.岐路に立たされる外国人雇用戦略

新型コロナウィルスが世の中の動きを一変させるまでは、少子高齢化による構造的な労働力不足が日本社会の大きな課題として浮上していました。中小企業を中心に労働力不足が原因となり倒産をしてしまう「人手不足倒産」の件数が年々増加し、日本経済の停滞につながることが問題視されるようになりました。
 その打開策として大きな注目を集めたのが新たな労働力としての外国人雇用です。2018年12月の臨時国会において、在留資格「特定技能」の新設を柱とする「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が可決、成立し、2019年4月より人手不足が深刻化している特定の産業分野(14分野)において「特定技能」という資格での新たな外国人人材の受け入れが可能となりました。(図表1参照)

図表1:「特定技能」の資格概要

出典)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(2008~2021年10月)3 を元に筆者作成

しかし、2020年より感染拡大したコロナウィルスの影響により、多岐に亘る産業分野において経済活動が停滞し、日本国内においても多くの人が職を失うという事態に発展しています。人手不足が課題となっていた産業分野の中にも、前年と様変わりして人余り傾向に転じた分野もあり、企業の人手不足感は2020年4月現在において、前年同期比「正社員」がマイナス19.3ポイント、「非正社員」がマイナス15.2ポイントと大きく減少しました。その一方で、従業員の過剰を感じている企業は前年同期比「正社員」がプラス13.5ポイント、「非正社員」がプラス14.8ポイントと増加しています 2 。加えて、コロナウィルス感染拡大予防の水際対策として新規入国規制が強化され、審査済証や査証を発給された人であっても入国停止となったことから、多くの資格保有者が自国待機を余儀なくされています。このようにパンデミックという予期せぬ事態により、日本における外国人雇用戦略は大きな岐路に立たされています。

2.withコロナ時代の外国人雇用

コロナ禍において未来の予測は困難であり、何が正しいのか解を導き出すことは容易ではありませんが、企業はコロナウィルス感染の収束を見据えて、徐々にポストコロナにおける経営体制の構築に取り組んでいます。
 特にコロナ禍の外国人雇用においては、雇止めや契約不履行などの問題が顕在化しています。しかし、外国人雇用数の推移をみてみると、確かに2020年以降は伸び悩んでいますが、意外な事に微増で推移をしています。(図表2参照)「外国人雇用状況の届出状況」の提出の義務化が始まった2008年から一貫して外国人労働者の雇用数は増加をしており、2021年まで年率9.4%増で推移をしています。また、外国人を雇用している事業所の数は年々増加しており、コロナ禍においてもその数は増加の一途をたどっています。

図表2:外国人雇用状況と雇用事業者数の推移

出典)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(2008~2021年10月)3 を元に筆者作成

筆者が競争的資金を受けて実施している研究 4 の調査結果からも、「外国人を雇用したことがある」と回答した人(2,901名/10,000サンプル中)のうち、79.4%が「現在も雇用している」と回答をしています。このうち、コロナウィルス感染拡大前と比較して「外国人雇用数は減少した」と回答した人は僅か17.5%のみであり、66.0%が「変化なし」、16.5%が「増加した」と回答しています 5 。
 コロナ禍においても、多くの企業で外国人労働者を雇用し続けているのは、彼らを「戦力」として評価をしているからに他なりません。実際に、前出の調査において外国人労働者が職場において戦力になっているかどうかを尋ねたところ、実に81.5%もの人が外国人労働者を「戦力になっている」と評価しています。このように、日本社会において、外国人労働者は既に労働力の一翼を担い始めていると考えられます。

3.多文化共生におけるダイバーシティ・マネジメント

コロナ禍においても外国人雇用が減少しないという事象に対して、私たちはもっときちんと向き合うべきだと考えます。コロナウィルスの感染状況が改善されれば、必然的に入国制限が緩和され、再びグローバル化という波に乗って、多くの人の流入が再開されます。それに伴って経済活動も活発化し、コロナ禍では人余りに転じた産業分野でも再び人手不足問題が浮上することが予想されます。その動きが活発化する前に新たに入国する外国人労働者に対してどのような支援をしていくべきか、今こそ準備をしておくことが大切であると考えます。
 ダイバーシティという言葉は、通常「多様性」と訳されますが、残念ながら、これまでの日本の企業組織におけるダイバーシティ議論は女性の社会における活躍推進に重きを置く傾向が強いのが特徴的です。本来ならば「多様性」は女性だけでなく、LGBTQ、障がい者、そして外国人労働者も含めて対策を議論していくことが重要であると考えます。
 とかく、組織のダイバーシティ・マネジメントを検討する際、社会的弱者の救済といった側面が強くなりますが、多文化共生におけるダイバーシティ・マネジメントは、単に外国人労働者の支援やサポートといった議論では「多様性」を活かすことにはなりません。前出の調査おいても、多くの人が外国人労働者を「戦力」として評価をしていることが明らかになったことから、「多様性」を組織の「優位性」と捉え、それを組織の強みとして戦略的にマネージメントしていくことがこれからの企業には求められていると思われます。多くの組織がパンデミックという未曽有の出来事を転機として、新たに「多様性」を活かすダイバーシティ・マネジメントに取り組んでいくことを切に願っています。

出典
1 出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
https://www.moj.go.jp/isa/content/930006033.pdf
2 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」2020年4月の数字による。
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200510.html
3 厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(2008~2021年10月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/06.html
4 東京未来大学特別研究助成「ニューノーマル時代における外国人雇用の現状と課題」(代表:郭潔蓉)

5 郭潔蓉「外国人雇用に関するアンケート」(web調査)2022年3月7日実施

著者プロフィール
郭 潔蓉
 東京未来大学モチベーション行動科学部モチベーション行動科学科教授。ビジネス・ブレイクスルー大学、大東文化大学を経て現職。
 専門は多文化社会、ダイバーシティ・マネジメント、東・東南アジア政治経済。


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日本語教育が必要な児童生徒の教育課題

大阪大学大学院国際公共政策研究科 特任准教授 佐伯 康考

1.はじめに

JICA緒方貞子平和開発研究所が2022年2月3日(木)に主催したシンポジウム「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けて~将来の外国人の受け入れに関するシミュレーション(需給推計)と共生の在り方(課題と提言)」では、目標GDP達成に必要な外国人労働者数として2030年に419万人、2040年には674万人という推計結果が示されました 1 。
 日本国内の外国人労働者数は2012年の68.2万人から2019年には165.8万人へと大幅な増加が続いていたものの、2020年と2021年には新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入国制限の影響もあり、2021年10月末時点で約172.7万人に留まっています。つまり今回の推計結果は、日本社会は現在の外国人労働者受入人数よりも、あと約10年で約250万人、約20年で約500万人多くの外国人労働者受入が必要ということを意味します 2 (図1参照)。
 古川禎久法務大臣は法務省で2022年の年頭所感を述べた際に、技能実習制度と特定技能制度の見直しについて言及し、2022年1月14日の閣議後記者会見では「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉強会」設置について明らかにしました 3 。家族帯同が可能な「特定技能2号」の職種拡大などの議論が本格化するなど、本年は外国人労働者とその家族の受入について、日本社会全体で議論を深めることが必要不可欠であり、筆者が特に重要と考える外国人労働者に帯同する子どもの教育について論点を提示したいと思います。

図1 日本国内で就労する外国人労働者数推移と目標GDP達成に必要な外国人労働者数

厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(各年度) 4
価値総合研究所「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた
調査研究-暫定報告-」 5 より筆者作成

2.疲弊する教育現場

「ぞっとしますね……。」日本語指導を必要とする児童が多く通う小学校の校長先生に、家族帯同が可能な「特定技能2号」の職種拡大について質問した際に漏らされた言葉です。お話を伺ったのは2021年夏であり、新聞などで大々的にこの問題が報じられる前のことでした。日本語指導を必要とする児童生徒が急増する中、日本語指導をはじめとする支援体制の拡充を求める声は高まっており、文部科学省も日本語教育についての予算を増加し、加配教員のための予算拡充などの取組を行っていることは事実です。
 しかし、学校は日本語指導を必要とする児童生徒への支援以外にも、英語教育、デジタル教育、少人数教育、新型コロナウイルスへの対応など、社会からの様々な要請に追われ、余裕のない職場環境に陥っています。大量退職等に伴う採用者数増加の影響もあり、ピーク時(平成12年度)には12.5倍だった公立小学校教員採用試験の競争率(採用倍率) 6 は年々低下し、令和元年度には2.8倍と3倍を下回りました。
 こうした状況に問題意識を持った文部科学省は教職の魅力を伝え、教職希望者を増やすことを目的として2021年3月から「#教師のバトン」プロジェクトを展開しました。しかし、長時間労働や、部活動顧問の負担など、教師の厳しい労働環境を訴える投稿が相次ぎ、学校現場の働き方改革が急務であることが社会に広く周知される皮肉な結果となりました。令和3年度採用選考試験でも競争倍率の低下に歯止めがかからず、2.6倍と過去最低値を更新しています。もちろん教員採用試験の倍率は民間企業等の採用状況等にも影響を受けるため競争率低下だけを問題視することは適切ではないと思いますが、疲弊した教育現場が変わらなければ、日本語指導を必要とする児童生徒たちへのサポートも行き届かない恐れがあります。家族滞在として来日する外国人労働者の子どもを増やす方向で政策決定をするのであれば、疲弊する教育現場の実情を十分に認識し、先生方が余裕を持って来日する子どもたちを迎え入れるだけのサポートを政府として整えることが必要不可欠です。

3.日本語指導を必要とする児童生徒の特定地域への集中

文部科学省から2022年3月末までには「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」 7 の最新版が公表される見通しですが、本稿執筆時点では平成30年度調査結果までしか公表されていないため、今回は平成30年度調査データを用いて議論を進めます。
 平成30年度調査における日本語指導を必要とする外国人児童生徒の都道府県別人数では、愛知県が全国最多の9,100名で全体の22.3%を占めます。以下、神奈川県が4,453名で10.9%、東京都が3,645名で8.9%、静岡県が3,035名で7.4%、大阪府が2,619名で6.4%と続き、上位10都道府県で全体の78.6%を占めています(表1参照)。
 都道府県を問わず、子どもがより良いサポートを得られる学区選択は住居選びにおける重要な要素であり、日本語指導を必要とする児童生徒が通う学区も集中する傾向が見られます。例えば愛知県知立市の知立東小学校では、令和3年に在籍する307名の生徒のうち66%の204名が外国人児童となっています 8 。
 技能実習制度とは異なり、移動性が高い「特定技能2号」の在留資格で就労する外国人労働者に帯同する児童生徒たちは日本語指導を必要とする児童生徒が多くサポート体制が整っている地域の学校に集中する可能性があります。外国人労働者と帯同家族の受入を拡大するのであれば、実態についての調査を定期的に実施するとともに、その結果を公開し、地域社会の様々な関係者と協働して適切な対策を講じることが政府には求められます 9 。

表1 日本語指導を必要とする外国人児童生徒が多い上位10都府県の人数と全体割合

文部科学省 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度) 7 より筆者作成

4.おわりに

2019年4月の改正入管法施行から間もなく3年が経過しようとしていますが、その大半の時間は新型コロナウイルス感染拡大による入国制限が繰り返され、外国人労働者の家族帯同について十分な議論を行える状況ではありませんでした。この原稿を執筆している今もなお、日本の入国制限が解除されることを心待ちにしている人々が海外に大勢います。
 出入国管理政策と社会統合政策は車の両輪です。将来的な法改正を視野に入れた議論を行うこと自体は有用ですが、未だ入国制限が続いているような非常事態の中で拙速な政策決定がなされ、さらなる混乱や将来への負の遺産が生じる事態は避けなければなりません。外国人労働者と帯同家族を支えている様々な人々の意見に耳を傾け、持続可能な制度設計がなされることを切に願います。


1 JICA緒方貞子平和開発研究所|2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けて~将来の外国人の受け入れに関するシミュレーション(需給推計)と共生の在り方(課題と提言) ~
https://www.jica.go.jp/jica-ri/ja/news/event/20220203_01.html
2 この推計人数はあくまで設備投資が促進された場合の数字であり、仮に十分な設備投資が行われなかった場合には、さらに多くの外国人労働者受入が必要という推計結果となります。

3 第1回目の勉強会では政策研究大学院大学の田中明彦学長から、第2回目以降には移住者と連帯する全国ネットワークの鳥井一平代表理事、国立社会保障・人口問題研究所の是川夕国際関係部長から話を伺う予定であることが法務大臣閣議後記者会見で報告されています。

4 厚生労働省|外国人雇用状況の届出状況について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/06.html
5 価値総合研究所|2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究–暫定報告–
https://www.jica.go.jp/jica-ri/ja/news/event/tfpeil0000002f5m-att/20220203_01.pdf
6 文部科学省|公立学校教員採用選考試験の実施状況
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1243159.htm
7 文部科学省|日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400305&tstat=000001016761
8 知立東小学校|令和3年度知立東小学校の教育
http://www.city.chiryu.ed.jp/chiryuhigashiel/0519r3new.pdf
9 本稿では日本語指導を必要とする児童生徒が集住する地域における課題を中心に論じていますが、散住地域においても、コロナ禍で進んだオンライン指導を積極的に活用するなど、教育リソースの不足による地域格差を縮小するための工夫が必要です。例えば大阪府はオンライン日本語教育を活用し、府内の地域格差を縮小するための取組開始を決定しました。こうした先進的取組は評価されるべきですが、現在は週当たりの時間数も限られているため、十分な時間数を確保するために更なる予算拡充が求められます。

著者プロフィール

佐伯 康考
大阪大学大学院国際公共政策研究科特任准教授。東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室特任助教、大阪大学共創機構特任助教などを経て現職。国際的な人の移動と未来共生社会の構築について研究を行っている。博士(経済学)。著書に『国際的な人の移動の経済学』(明石書店2019)など。移民政策学会常任理事(国際交流委員長)。

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日本語学校を入口に活躍する元留学生たち

カイ日本語スクール代表 山本 弘子

はじめに

日本にいる外国人留学生は、経済格差がある地域・国の出身者が多くを占めることもあり、特に日本語学校で学ぶ留学生といえばアルバイトの問題 1 がメディアでも取り上げられ、技能実習生と並んで、日本の産業を下支えする存在として語られ認識されています。確かに多くの学生たちがアルバイトをしていますが、彼らが総じて貧しく苦しく、借金返済や母国への仕送りなどに追われて本来の留学から程遠い生活を送っているという日本社会の持つ<留学生像>には違和感を覚えます。私の知る留学生たちは、みなスマホを持ち、アニメやゲームやJ-popを楽しみ、日本のコンビニや居酒屋が大好きな、どこにでもいる若者たちです。
 留学生が日本のアルバイト要員として必要不可欠だとする認識は、完全に誤りとは言わないまでも、メディアでの取り上げられ方などを見るにつけ、日本社会は留学生にアルバイト以上の価値を期待していないのではないかと非常に心配になることがあります。実際には、日本語学校で学んだ後、技術、経済、外交、地域社会などさまざまな分野で、日本に貢献してくれている人たちが少なからず存在しています。

1.日本語学校で学ぶ人たちの多様性

在留外国人統計 2 によると、2019年12月現在の留学生数345,791名中、94%に当たる325,543人が中国、ベトナム、ネパールをはじめとするアジア出身者ですが、国籍数で見ると留学生全体では182カ国(+無国籍)に上っています。このうち、日本語学校生の国籍は、少なく見積もっても、120カ国程度に上ると思われます。
 日本語学校で学ぶ目的は、進学の他、キャリアアップ、仕事や生活に生かすなど、さまざまです。中には、大学に通いながら日本語を学びに来る留学生や、交換留学後に日本語を学ぶために改めて留学の在留資格を取る人もいます。また、留学以外の在留資格を持つ人々-ビジネス関係者やその家族、研修生、日本人の配偶者、日系人、難民、短期滞在者、研究者なども学んでいます。(一財)日本語教育振興協会の調査 3 によると、日本語学校の修了生の進路は、2014年から2019年の5年間では、約75%が「進学」、約16%が「帰国」、約9%が「その他(就職含む)」となっています。

2.日本語学校生たちの進路

日本語学校で学んだ学生たちの25年間の進路の推移(図1)を見ると、人数の増減に関わらず、全体の約7割は進学していることがわかります。就職している人は「その他」に含まれるため数字としては見えません。しかし、2010年の入管法改正により、就業資格への変更ができなかった「就学」資格が就業資格への変更が可能な「留学」資格と一本化されたことで、日本で就職している日本語学校生も徐々に増えていると推測されます。つまり、日本語学校修了生の多くは進学等で日本に残っており、留学生全体の日本での就職率が3割を超えている 4 ことを考えれば、さらに就職して日本社会に定着する人も少なくないといえるでしょう。

令和2年度日本語教育機関実態調査結果報告 3 より筆者作成

留学生が日本で就職した場合、どのような仕事に就いているかというと、ほとんどが「技術・人文知識・国際業務」といういわゆるホワイトカラーとなり、「特定活動」、「教授」、「経営・管理」、「その他」と続きます(図2)。

令和2年度における留学生の日本企業等への就職状況について 5 より筆者作成

このデータからも、留学生の多くが、いわゆる高度人材予備軍であることが明らかです。大学や日本語学校等の学費は年間80万円から150万円程度で、それに生活費を加えて試算すると年間200万円程度の自己投資をしていることを考えれば当然の結果でしょう。
 では、実際にどのような職業に就いているのでしょうか。

3.日本語学校修了後の元留学生たち

筆者の運営する日本語学校の修了生や、在籍していた人たちだけ見ても、それぞれが国内外において実にさまざまな方面に進み、活躍しています。修了生・在籍者の足跡を追い切れない中でも、母国に帰国してから日本企業の海外支社に勤めたというケースや、日本に残って活躍しているケースも、たくさんあります。
 あるメキシコ人男性は、子供のときに見た「鉄腕アトム」に描かれた人間とロボットの共生というビジョンに魅せられ、母国でロボット工学を専攻したのち来日。日本語を学んだあと、念願だった日本の機械関連の会社にエンジニアとして就職しています。その他、国際交流員として観光振興に携わる人、レストラン経営、ゲーム会社のエンジニア、大手商社ビジネスパーソン、コンサルタント、大使館での勤務など数多くの活躍を耳にします。
 世に名前が出ている人も数名現れました。スウェーデン出身のマンガ家のオーサ・イェークストロムさんは、専門学校に進んだのち発表した『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』シリーズが2021年に累計販売27万部を突破し、テレビなどでも取り上げられました。
 同じくスウェーデン出身のルドヴィク・フォシェルさんは、専門学校に進学後、ゲーム音楽家としてThe Game Awards 2019で最優秀スコア&ミュージック賞を受賞。2021年公開のアニメ映画「竜とそばかすの姫」の音楽担当に抜擢されました。
 30年以上前の修了生アハメド・シャハリアルさんは、2021年に開学した新潟県三条市立大学の初代学長に就任しました。バングラデシュより来日した当時から非常に優秀な人物でした。コロナ禍の中、無事に開学に漕ぎ着け、地域密着型の新しい大学の形を目指して精力的に活動しています。
 また、2021年には、15年以上前に学んでいた元学生が「UAEの駐日特命全権大使として日本に戻ってきた」と、わざわざ学校を訪問してくれました。驚きや喜びと同時に、何より元留学生が日本との外交を担う姿には大きな感慨を覚えました。
 本校だけでもこのようにさまざまな活躍事例があることを思えば、日本語学校全体では膨大な成果が上がっているのは言うまでもありません。2019年に、あるイベント開催のために調べたことがありました。設立後20年以上経つ10校ほどの日本語学校からは、ITエンジニア、英語教師、通訳、商社社員など、多くの事例が続々と集まりました。本稿の執筆に当たり、日本語学校の修了生の活躍について他校に聞き取り調査したところ 6 、大手・中小企業のビジネスパーソン、研究者、外交官、エンジニアなど、立派な活躍ぶりが聞かれました。
 有名人としては、世界的ファッションデザイナーのBowie Wong氏、マレーシア出身の映画監督リム・カーワイ氏、東京パラリンピックのブラインドサッカー選手佐々木ロベルト・泉氏、京都精華大学学長ウスビ・サコ氏、タレントで外交官のゾマホン・ルフィン氏など、多くの方々が日本語学校で学んだのち、進学や就職を通し、日本社会や世界に羽ばたき活躍しています。

4.日本語留学生への正しい理解と認識を

国立社会保障・人口問題研究所の是川夕氏は、日本語学校で学ぶ留学生の詳細な調査を通じて、以下のとおり、これまで日本社会で語られてきた留学生像とは違う実像を浮かび上がらせています 7 。

 以上のことから見えてくるのは、日本語学校で学ぶ生徒の多くは相対的に学歴が高く、また都市部出身で、父親の学歴が高い傾向が見られるということである。さらに日本以外の候補国があると答えたものは30.2%と比較的少数であり、また来日時に日本、あるいは日本も含む外国で留学、就労したことのある家族や親せきがいると答えたものはそれぞれ留学生全体の24.5%、45.1%であることから、日本になんらかのつながりを有するものが最初から日本を目指してやってきたといった可能性が見て取れる。〈中略〉つまり、こうした結果から、出身国で比較的余裕のある階層出身の若者が日本に来ることを最初から希望してくるというパターンを見て取ることができる。(是川「人口問題と移民」 p163)

 日本語学校は優秀でポテンシャルの高い<人材>の宝庫であり、深刻な人口減少に直面している日本にとって重要な存在であると言えます。正しい認識のもと、必要な法整備や支援を行い、質の高い留学生活が送れるようにすることが、近未来の優秀で頼もしいパートナー作りにつながると確信します。


1 留学生のアルバイトは、資格外活動許可を得たうえで、原則1週間で28時間以内の制限がありますが、それを超えてアルバイトをしているケースが問題になっています。

2 出入国在留管理庁|在留外国人統計(2019年12月)
https://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html
3 一般財団法人日本語教育振興協会|令和2年度日本語教育機関実態調査結果報告
https://www.nisshinkyo.org/article/pdf/overview06.pdf
4 独立行政法人日本学生支援機構|2019(令和元)年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/03/date2019sg.pdf
5 出入国在留管理庁|令和2年度における留学生の日本企業等への就職状況について
https://www.moj.go.jp/isa/content/001358473.pdf
6 聞き取り調査には、大阪YMCA学院日本語学科、コミュニカ学院、ヒューマン日本語学校、ヨシダ日本語学院他にご協力いただきました。

7 是川夕(2019)「人口問題と移民」明石書店

著者プロフィール

山本 弘子
カイ日本語スクール代表。OL、日本語教師を経て1987年に日本語学校を設立。日本語学校協同組合理事長、日本留学の扉を開く会副代表等。100カ国以上の留学生、ビジネスパーソン、日本人の配偶者、家族、企業研修生、宣教師等多様な背景、目的の学習者への日本語教育を行う。著書に『日本語教師見なおし本』(2003)、『新しい多文化社会論』(第8章,2020)、『キャラクターと学ぶリアル日本語会話』(2021)他。

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外国籍住民の学習ニーズを知るための実験的Web調査

相模女子大学英語文化コミュニケーション学科教授 渡辺幸倫

はじめに

2019年に史上最高の3,615万人を記録した外国人入国者数は、新型コロナウイルスの影響で2020年には522万人へと激減しました。それにもかかわらず在留外国人数は、2019年の293万人から2020年の289万人とさほど減少しておらず、行政各部門が提供するサービスによって、自立した住民を増やす取り組みの重要性は変わっていません。今回は外国人住民を含むすべての人々がより豊かに生活できるようになるための学習について考えてみましょう。

1.外国人の学習ニーズ調査

地域の外国人の教育といえば、まず外国にルーツをもつ子どもへの日本語指導や、自治体が提供する日本語教室などが思い浮かぶことでしょう。日本語は日本での暮らしを左右する重要な要素です。極めて限定的な日本語力しかない場合には、生活を維持していくだけでも多くの困難が予想されます。基礎的な日本語教育は緊急性の高い分野で、この連載コラムでも何度も言及されています。
 しかし、日本語教育の充実は必須とはいえ、これだけで外国人住民の学習のニーズが充分に満たされているとは言えません。外国人住民にも「サバイバルのための日本語」を超えた、人生をより豊かにするための教育機会が提供されているのか、今一度問いなおす必要があります。もちろんこれらの教育の提供も限られた予算や資源で行われるので、具体的な根拠に基づいた計画策定が不可欠です。日本語教育のニーズについては、文化庁が実施している実態調査をはじめ各自治体で行われています。しかし、外国人を対象にした幅広い学習ニーズの調査は、ほぼ行われていないのが現状でしょう。
 在住外国人を対象とした調査が十分に行われていない理由は、対象者の選定、調査票の配布・回収、多言語対応などさまざまな困難があるためだと考えられています。外国人は地域の有権者ではないため、地域政治の力が働きにくいという事情もあるでしょう。つまり、調査の必要性があるにもかかわらず、調査自体の困難性のため根拠のある教育機会の提供ができないという悪循環が存在しているのです。そこで筆者は、不十分であったとしても、実験的探索的な調査からでも、失敗を含めて学ぶことがあるはず!という精神で、内閣府が日本国籍者限定で実施している『生涯学習に関する世論調査』を参考に、日本在住の外国人を対象にしたWeb調査を実施しました(渡辺2022)。

2.調査の概要

3.調査の結果

本調査結果と既存統計情報(『令和2年末現在における在留外国人数』(出入国在留管理庁 2021)、『生涯学習に関する世論調査(平成30年)』(内閣府))を比べると次のようになりました。

表1 在留外国人(2021)との年齢分布の構成比
表2 在留外国人(2021)との国籍分布の比較比
表3 在留外国人(2021)との在留資格の比較
表4 『生涯学習に関する世論調査(平成30年)』との学習実施状況の比較
(質問)学習状況(この1年間くらいの間に、どのような場所や形態で学習をしたことがありますか。)
表5 『生涯学習に関する世論調査(平成30年)』と本調査回答者の今後の学習意向の比較
(質問)学習意向(これから学習するとすればどのようなことを学習したいですか。)

4.考察

(1)調査の信頼性について

本調査の回答者は①筆者を起点にした友人・知人の紹介と②クラウドワークスという仕事マッチングサイトを利用して募りました。全国の在住外国人から無作為抽出したものではないため、まず日本在住の外国人全体との類似性を確認することが必要です。ここでは在住外国人の統計と本調査の結果を年齢構成、国籍構成、在留資格の3点から分析しました。すると年齢や国籍の傾向はおおむね重なっているものの「現役世代」が多いこと 、その一方で在留資格は、「人文・国際・技術」(+15.4%)が多く、「技能実習」(-12%)と「特別永住」(-7.9%)が少なかったことがわかりました。結果の解釈にはこれらの点に留意する必要があるでしょう。

(2)学習状況と今後の学習意向について

学習したことがある人の割合は『生涯学習に関する世論調査』に比べて高い(+16.9%)ですが、その差は「インターネット」や「自宅での学習」、そして留学生の回答者の多くを反映したと思われる「学校の講座や教室」の多さが関係していそうです。一方で、その他の学習形式は日本人とほぼ同程度ということがわかりました。また、学習意向の高い分野は「職業上必要な知識・技術」(+30.2%)が顕著に高く、「インターネットに関すること」(+19.0%)も高いようです。ただし、「趣味的なもの」、「教養的なもの」、「社会問題に関すること」など社会教育施設などで行われている講座の内容に関心を持っている外国人が日本人と同程度にいることには注意が必要です。外国人住民も既存の豊かな講座への可達性(accessibility)を求めているのです。そのため、一般の講座に外国人も参加しやすい工夫や仕組みを考えてみる必要があるでしょう。
 一方、参考にした『生涯学習に関する世論調査』にはない質問でしたが、日本語学習については「生活に必要な内容」に比べて「仕事に必要な内容」の方が高いことも読み取れます。「日本語教室といえば生活日本語」、「仕事に必要な知識は仕事をしながら学ぶものだ」といった議論を聞くことが多いですが、日本語力がかなり高いレベルにある方でも、さらに日本語力を高めたい、職業上の知識・技能を高めたいという強い意向があることがわかりました。本調査は、すでに日本社会で働く「現役世代」が多いという特徴がありましたが、このようなニーズはあまり指摘されてこなかったのではないでしょうか。

おわりに

このコラムでは、地域の人々がより豊かに生活できるようになるための学習を考える材料として、在住外国人の教育ニーズ調査について紹介しました。在住外国人を対象とした調査は、さまざまな困難がありますが、実験的探索的調査であれば簡便に安価に行うことが可能です。もちろん解釈には慎重になる必要はあります。しかし、今後も発展する各種の技術や方法を駆使することで、予備的であったとしても新しい視点からの情報を簡単に得られれば、行政担当者も各種情報の分析や施策の立案により時間が使えるようになることでしょう。
 参考資料には、本調査で利用したフォームを上げておきました。ご入用の方はぜひお使いください。

 本調査は、公益財団法人 北野生涯教育振興会の研究助成(2019年)を受けました。

参考資料・文献
1 調査フォームWebサイト(資料用)
https://forms.office.com/r/w8HLiyJPqH

2 内閣府(2018)『生涯学習に関する世論調査(平成30年)』
https://survey.gov-online.go.jp/h30/h30-gakushu/index.html
3 出入国管理庁(2021)『在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表』
https://www.moj.go.jp/isa/policies/statistics/toukei_ichiran_touroku.html
4 渡辺幸倫(2021)「外国人の教育ニーズ ―幅広い学習機会の提供を」川村千鶴子編『多文化共創社会への33の提言』都政新報社.
5 渡辺幸倫(2022.3)「「外国籍住民の学習ニーズ調査」法開発のための実験的Web調査の検討」『相模女子大学紀要』.

著者プロフィール

渡辺幸倫
 相模女子大学英語文化コミュニケーション学科 教授。大東文化大学非常勤講師、立教大学兼任講師などを経て現職。専門分野は、社会教育、多文化教育、言語教育など。
 主な著書に、『多文化社会の社会教育』(編著、明石書店、2019年)『多文化「共創」社会入門――移民・難民とともに暮らし、互いに学ぶ社会へ』(共著、慶應義塾大学出版会、2016年)、『多文化社会の教育課題――学びの多様性と学習権の保障』(共著、明石書店、2014年)など。

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外国人留学生の就職と自立

大東文化大学非常勤講師 マハルザン・ラビ

1.外国人留学生の就職の現状

日本に在学している外国人留学生は2020年5月1日現時点で279,597人です 1 。この数を出身地域別でみるとアジア系が多く(図1)、2020年度は約95%を占めています。コロナ禍の影響もあり、外国人留学生の数は2019年から1割程度減りましたが、日本に留学したいという外国人は、年々増加しています。特に、コロナ禍前の数年には、ベトナムやネパールからの留学生が急増していました。ネパールのような南アジアの留学生が増えた理由は、中国、韓国からの留学生減少に危機感を感じた日本語学校が、非漢字圏諸国の留学生を受け入れたからだと思われます(佐藤、2016) 2 。
 

図1: 2020年(令和2年)出身国(地域)別留学生数ランキング「(  )=2019年の数値」(単位 人)
出典:独)日本学生支援機構|2020(令和2)年度外国人留学生在籍状況調査結果 3

外国人留学生の就職に関する状況も同じような傾向です。2020年(令和2年)に日本の大学・専門学校などを卒業した後、就職を目的に在留資格の変更を許可された外国人留学生の数は29,689人でした 3 。(図2)コロナ禍の影響もあるので、2019年(令和元年)と比較すると少し減りましたが、コロナ禍前の年を見てみると毎年増加していることがわかります。(図3)2020年(令和2年)に就職した人の数を国別で見ると中国10, 933人、ベトナム6, 582人、ネパール3,552人でした。2015年(平成27年)から2020年(令和2年)の許可人数の推移を比較すると、中国は減少していて、ベトナムやネパールが急増している傾向です。一方、2009年(平成21年)から2020年(令和2年)の許可人数の推移をみると、2016年(平成28年)以前の年に比べて少し許可率が低くなっています。日本のように人手不足に悩む中小業がたくさんある国にとって留学生は貴重な人材ですが、就職率が以前より低くなっているのはなぜでしょうか。その原因を調べ、解決策を探す必要があると考えられます。

図2:留学生からの就職目的の処分数等の推移
出典:出入国在留管理庁|令和2年(2020年)における留学生の日本企業等への就職状況について4

図3:国籍・地域別の許可人数の推移
出典:出入国在留管理庁|令和2年(2020年)における留学生の日本企業等への就職状況について4

2.日本に留学する理由と希望

世界各国から日本に留学したいという人が増えている理由としては、日本が世界に届けている日本独特の文化、ポジティブ思考や優れた技術だと考えられます。日本の技術を学び、卒業後出身国に戻り就職したいという留学生もいますが、多くの留学生は日本において就職したい、日本で生活を続けたいという希望を持っています 5 。例えば、ネパールのような途上国の留学生は、勉強のためだけではなく、キャリアのため、日本で働くためにも来日しています。しかし、外国人留学生の就職の現状をみると就職を希望する人の数と就職している人の数には乖離があります。日本学生支援機構(JASSO)の平成29年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果によると、平成29年度に日本の大学または専門学校を卒業/修了した外国人留学生50, 054人のうち、日本で就職した人は16,242人(約32%)でした 6 。また、同年度のJASSOの私費外国人留学生生活実態調査結果によると、卒業後に日本での就職を希望する外国人留学生は約64%を占めています 7 。卒業後帰国を希望する人や日本以外の国での就職を希望する人を除いて、日本の大学または専門学校を卒業した後就職したくてもできない留学生にはどのようなハードルがあるのでしょうか。就職の現状と課題について考えていきましょう。

3.外国人留学生が日本での就職で直面する問題

日本で就職を希望する外国人留学生が、就職したくてもできない原因はいくつかあると考えられます。著者自身も留学生として来日しましたが、その経験と自分のコミュニティ(ネパール)の留学生向けの活動の経験から考えます。
 現在約10万人が在住しているネパール人のうち、3割が留学生です。日本の外国人留学生の数を出身国別でみると、中国、ベトナムに続き、第3位になります。
 ネパールの留学生の就職率が低い原因として挙げられるのは、1)日本の就職活動のあり方が理解できない、2)日本語能力が足りない、3)日本語による書類の書き方が分からない等です。ネパールの留学生は、留学するため母国で借金して来日しており、生活するお金や学費も自分で用意しなければなりません。そのため、大学より学費が安い専門学校や日本語学校などを選び、就職を目指す人が多いのですが、就職までのサポートが足りず、そのまま帰国する学生が著書の身の回りにたくさんいます。日本と違う文化で生まれ育った留学生には、日本の企業のあり方を十分に理解できていないこともあると思いますが、日本での留学経験を生かせるような場所を作る必要があると思います。
 外国人留学生が直面する大きな壁の1つは言語だと考えられますが、日本人との交流がないのも課題です。留学生として活動していた頃、著者自身も日本人と接する機会が少ないと感じていました。その結果、就職に関する情報やノウハウを知らない人が私の周りに多くいました。日本で留学生として何年も活動した後、希望の就職ができず残念な気持ちを持って帰国する人が多いのが現状です。

4.おわりに

日本にとって外国人留学生は重要な人材であり、留学生の安定した着地を考えていく時代になっていると感じます。日本に在学する留学生の多様性を考慮し、日本語能力だけにこだわらず、個人の能力とスキルを求める社会になってほしいです。
 留学生を求人する企業を増やすためには、留学生が就職に必要なスキルを身につけられるプログラムや、就職に関することについて気軽に相談できる支援センターなどが必要だと考えられます。さらに、日本語を学ぶことができる環境を作り、日本語学習のモチベーションを維持・向上させ、留学生が自立できるようにしていくのが重要です。日本で就職したい留学生をサポートすることで、留学生がこれからの日本社会に貢献できるようになると考えます。

出典
1 独)日本学生支援機構|令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/04/date2020z.pdf
2 佐藤由利子(2016)「ベトナム人、ネパール人留学生の特徴と増加の背景―リクルートと受け入れにあたっての留意点―」『ウェブマガジン留学交流』2016年6月号Vol. 63 
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/related/kouryu/2016/__icsFiles/afieldfile/2021/02/18 /201606satoyuriko.pdf
3 独)日本学生支援機構|2020(令和2)年度外国人留学生在籍状況調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/04/date2020z.pdf
4 出入国在留管理庁|令和2年における留学生の日本企業等への就職状況について
https://www.moj.go.jp/isa/content/001358473.pdf
5 独)日本学生支援機構|令和元年度私費外国人留学生生活実態調査概要
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2021/06/seikatsu2019.pdf
6 独)日本学生支援機構|平成29年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2020/09/date2017sg.pdf
7 独)日本学生支援機構|平成29年度私費外国人留学生生活実態調査結果
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2020/10/seikatsu2017.pdf

著者プロフィール

マハルザン・ラビ
 大東文化大学外国語学科・スポーツ健康学科非常勤講師。博士(英語学)。トリブバン大学国際言語学部で日本語を学び、2009年留学生として来日。2012年大東文化大学大学院外国語学科英語専攻博士課程に入学し、2018年博士号を取得。5か国語(英語、日本語、母国語ネワ-ル語、ヒンディ語、ネパール語)に精通。

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地方に外国人材の定着を図るには

東京工業大学環境・社会理工学院 准教授 佐藤由利子

少子高齢化が進む中で、生産年齢人口が急速に減少し、地方における働き手不足が深刻化しています。2019年4月に導入された特定技能制度 1 においても、大都市圏との賃金格差から、地方で受け入れた人材の大都市圏への転職が懸念されており、多文化共創社会の担い手としての期待が高まる留学生についても、大都市圏に集中しがちな傾向が見られます。
 このような状況の中で、地方に外国人材の定着を図るにはどうすればよいのでしょうか。
 このコラムでは、都道府県別の外国人の受入れ状況を概観した上で、地方への外国人材の誘導政策を実施してきたオーストラリアや、留学生の定着促進の取組みを行っている大分県の事例を紹介し、地方に外国人材の定着を図る方策を提案します。

1.都道府県別の外国人の受入れ状況

表1は都道府県別の人口と外国人口の全国における構成比を表しています(コロナ禍によって外国人受入れに大きな影響が生じたため、その直前の2019年末の数字を示しています)。
 人口と外国人口の構成比を比べると、薄く色を付けた13都府県(東京、大阪、愛知を始めとする三大都市圏と茨城、群馬、岐阜、三重、滋賀)では、外国人口の構成比が人口の構成比よりも大きく、人口当たりの外国人が相対的に多い地域と言えます。
 留学生の都道府県別の分布を見ると、東京が33.6%と全体の3分の1の留学生を集め、次いで大阪9.3%、埼玉6.3%、福岡6.1%の順で、これに千葉、京都、大分を加えた7都府県で、人口の構成比よりも留学生の構成比が高くなっています。これらは大学や学校が多い地域や国際的大学がある地域です。
 さらに専門的・技術的分野の在留資格者の分布を見ると、東京が33.5%を占め、次いで神奈川10.3%、大阪が8.0%、埼玉が7.4%、千葉6.9%、愛知6.3%の順であり、専門的・技術的分野の在留資格者の構成比が人口比よりも高いのは、これら6都府県のみです。
 このように、外国人、特に専門性や技術を有する人材は大都市圏に偏在しており、留学生についても、卒業して就労目的の在留資格に切り替える際、大都市圏に移動する傾向が読み取れます。他方、地方では生産年齢人口の減少が進み、若く、能力のある外国人をいかに誘致、定着させるかが課題になっています。

2.オーストラリアにおける地方への外国人材誘導政策

オーストラリアは、2019年に51万人の留学生を受け入れる世界第2位の留学生受入れ大国ですが(UNESCO統計2021)、大都市圏に留学生など外国人材が集中するのを緩和するため、地方への誘導政策を行ってきました。具体的には、専門性を有する技能移民(skilled migrants)の審査で、専門技能、英語力、年齢、学歴などをポイントに換算する際、人口増加率が低い指定地域に2年以上留学・居住した者に5点のボーナスポイントを与える優遇措置を2003年に開始し(当時の合格基準は115ポイント)、2004年には、指定地域に2年以上居住、1年以上就労した者に対する永住権申請のカテゴリー(subclass)を新設し、2005年には州・準州政府の保証によって10点のボーナスポイントを付与するようになりました。州の全域が指定地域となった南オーストラリア州では、1998年から2009年にかけて留学生が6.04倍と、全国平均の4.90倍を上回って増加し、この政策の効果があったと考えられます(佐藤・橋本 2011)。2012年には技能移民の審査にSkillSelect制が導入され、ポイントが基準を満たす有資格者を2年間登録し、雇用主が見つかった場合にのみ永住権を申請できる形になりましたが、指定地域に2年以上居住し、1年以上就労した者には、4年間の一時技能ビザが付与される仕組みが別途設けられました(佐藤2015)。現在は、地方への留学生・外国人材の誘導のため、次の措置を実施しています (Department of Home Affairs 2021)。
 
①永住権への道を開く2種類の地方技能一時ビザ:指定地域の州・準州政府または指定地域に居住する市民・永住者親族の保証による技能就労地方(暫定)ビザ (subclass 491)と、指定地域の雇用主の保証による技能雇用者保証地方(暫定)ビザ(subclass 494) 
②地方技能永住権ビザ(2022年11月以降開始。上記①と接続。最低3年間の指定地域での居住が条件)
③(州・準州政府により)地方への居住・就労を指名された者への技能移住ポイントテストでの追加ポイント
④地方の大学を卒業した留学生に対する優遇措置:大学卒業者一時ビザ(subclass 485)(学部課程とコース主体の修士課程修了者に2年間、研究主体の修士課程修了者に3年間、博士課程修了者に4年間与えられる)について、指定地域で2年以上居住した者に1~2年の延長を可能とする。

3.大分県における留学生の受入れと定着に向けた取り組み

大分県では、日英2言語で国際的教育を行う立命館アジア太平洋大学(APU)を2000年に誘致して以降、県の留学生が10倍に増えました。彼らを産官学で連携して支援するため、特定非営利活動法人「大学コンソーシアムおおいた」2 を設立し、生活支援、地域交流に加え、地元企業関係者との交流などを通じた就職支援を行ってきました。さらに2016年には、留学生の起業と就職を支援する「おおいた留学生ビジネスセンター(SPARKLE)」3 を開設し、留学生の地域への定着を一層推進しています。
 2017年には、留学生の起業促進のための国家戦略特区の申請を行い、2018年には大分県を含む9地域で「外国人起業活動促進事業」4 が開始され、起業準備のための1年間の特定活動(スタートアップビザ)が認められるようになりました。また、県が所有/指定するインキュベーション施設への入居と県の「起業支援対象者証明書」の交付を条件として、経営・管理の在留資格申請の際の資本金要件を500万円から300万円に引き下げています。大分県の留学生の特徴の一つは地元への愛着が強いことで、大分県・SPARKLEが2021年に実施した県内留学生240名のアンケート 5 では、152名が日本就職を希望し、うち23%が大分県内での就職を、33%が「やりたい仕事ができるなら場所はどこでもよい」と回答し、県内就職を希望する留学生が多いことがわかります。

4.地方に外国人材の定着を図るための提案

第1節で見たように、留学生や専門・技術を有する外国人は、大都市圏に集中する傾向があり、そのような中で、地方への外国人材の定着を図るためには、オーストラリアが行ってきたような、地方に留学、就労する者に出入国在留管理上の優遇措置を講じることが有効だと考えられます。
 具体的には、自治体が保証する場合、「技術・人文知識・国際業務(技・人・国)」や「経営・管理」などの在留資格の審査要件を緩和する(中小企業が技・人・国による外国人受入れを申請する際の書類を大企業並みに簡素化する、起業に必要な自己資金要件を引き下げる等)、永住許可申請にかかる審査要件を緩和する(在留期間要件の短縮等)などが挙げられます。また、このような措置は、特定技能など、他の在留資格者の地方への誘致・定着にも応用可能だと考えられます。
 また、大分県の留学生支援に見られるように、企業、自治体、大学等が連携して外国人を支援し、地域への理解と愛着を育むことも、定着を促進するために不可欠だと考えられます。
 今後、生産年齢人口の減少が一層進む中、上記の提案などを参考に、地方における外国人材の受入れが促進され、多文化共創の実現により、地域の活性化が図られていくことを願っています。
 
 
出典
 佐藤由利子・橋本博子 (2011)「留学生受入れによる地域活性化-自治体と大学の協働による取組みの横断的分析-」、『比較教育学研究』第43号、131-153頁

 佐藤由利子(2015)「留学生政策と技術移民政策の連携と課題-主要国の取り組み傾向とオーストラリアの事例分析から-」、移民政策研究、第7号、101-116頁
http://iminseisaku.org/top/pdf/journal/007/007_101.pdf
 Department of Home Affairs (2021) Regional Migration
https://immi.homeaffairs.gov.au/visas/working-in-australia/regional-migration(2021年10月3日閲覧)
 
参考
1 外務省|在留資格 特定技能
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/ssw/jp/index.html
2 特定非営利活動法人大学コンソーシアムおおいた
http://www.ucon-oita.jp/
3 おおいた留学生ビジネスセンター(SPARKLE)
https://oibc.jp/
4 経済産業省|外国人起業活動促進事業に関する告示
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startupvisa/index.html
5 大分県内留学生「卒業後進路・就職に関するアンケート調査」
http://www.ucon-oita.jp/pdf/service_report_questionary2021.pdf

著者プロフィール
佐藤由利子
 東京工業大学環境・社会理工学院准教授。
 日本評価学会理事(2011年〜現在)、移民政策学会編集委員(2019年~現在)、日本学術振興会「スーパーグローバル大学創成支援事業」評価部会専門委員(2020年〜2021年)、文部科学省「留学生就職促進プログラム」委員会委員(2017年~現在)など。
 専門は、留学生政策、開発経済、多文化共創、地域開発、政策評価。

第Ⅱ部 扉 ビジネスと人権
 ―共創経営と「気づき愛」の連鎖―

大東文化大学名誉教授 川村 千鶴子

1.「ビジネスと人権に関する行動計画」の基本的な考えを理解しよう!

国際連合人権理事会では、2011年(平成23年)に「ビジネスと人権に関する指導原則」1 が支持され、日本政府は2020年(令和2年10月)に「ビジネスと人権に関する行動計画に関わる関係府省庁連絡会議」から「ビジネスと人権に関する行動計画」(2020年~2025年)2 を策定しました。これは次の5つの基本的な考えに基づく行動計画です。

(1)政府、政府関連機関及び地方公共団体などの「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上
(2)企業の「ビジネスと人権」に関する理解促進と意識向上
(3)社会全体の人権に関する理解促進と意識向上
(4)サプライチェーンにおける人権尊重を促進する仕組みの整備
(5)救済メカニズムの整備および改善

 さらに分野別行動計画に基づき、「ビジネスと人権」に深い関心が寄せられています。投資においてもESG(環境・社会・企業統治)の視座が必要で、利益追求型から「持続可能」な経済活動のあり方が考えられてきました。人権デュー・デリジェンスの遵守をキーワードとし、国際人権の基準を尊重する企業活動を行っていくようになりました。グローバル資本主義の課題に取組むには、企業がサプライチェーン全体での人権侵害リスクに対応していくことが求められています。

2.パンデミック経験から、学んだことを大切に

新型コロナウイルスによる世界の累積感染者数は、2億4000万人を超え、493万人以上の尊い命が犠牲となりました(2021年10月現在)。尊い命の無念をどのように未来に活かしていけばよいのでしょうか? 経済・所得格差、学歴格差、健康格差、性別格差など様々な格差の要因が存在し、経済不況の不安の中、課題は山積し、格差の広がりは、児童労働が1億6000万人という現実と無縁ではないと思います。
 2021年2月1日、ミャンマーでは国軍によるクーデターが勃発し、その後1200人を超える市民が殺害され、多数の市民が不当に拘束されています3。 かつてアウン・サン・スー・チー氏が、来日の折、多数の滞日ミャンマー人に、「日本での経験を将来母国の教育改革に活かして欲しい」と熱弁されたことが忘れられません4
 タリバンが実権を掌握して2ヶ月を経たアフガニスタンでは1400万人が食糧不足となって冬を迎えようとしています。10月19日、日本大使館などのアフガン職員ら88人が日本に退避しました。共創する実践力と能動的対話力が必要とされますね。

3.企業内研修は、人権意識を育てる絶好のチャンス

 

多文化社会研究会は、企業活動と外国人雇用の実態を継続的に調査してきました。
 注目したのは、日本人と外国人が一緒に学ぶ企業内研修の充実です。緊急事態宣言中にも、技能実習生、留学生など若い世代と難民の人々が、学びの場、安心の居場所を主体的に共創していました。日本国内で、多様なルーツを持つ若者が民主主義を実感し、 憲法や国際法・国内法の概念を学び、個人の自由と生の保障の大切さを体感しているのです。そこに生まれる共創価値と相乗作用と世界に繋がる幸福の連鎖にも着目しました。それを「気づき愛」(Global Awareness)と呼んでいます。
 「ビジネスと人権」の根幹には、「気づき愛」の連鎖があります。
 さまざまな大企業、中小零細企業経営者は、自治体・医療・教育機関との共創・協働を推進してきました。人間の安全保障を基礎とし人権を尊重してきたからこそ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応し、企業を取り巻く環境や社会システムに内在する問題点について、さまざまな気づきを語り合うことができたわけです。

4.共創経営と「安心の居場所」の創造

多文化とは「差違の承認」です。多文化共創とは、文化的多様性を尊重するだけではなく、移民、難民、無国籍者、しょうがい者、一人親家庭、LGBTQ、高齢者など多様な人びとが主体性と責任をもって隣人として市民として積極的に交流し、行政とともに人権の概念を大切にし、異種混淆性に理解のある幸福度の高い社会を目指すことにあります。
 行政と企業と市民団体との連携、医療機関・教育機関とマスメディアの役割と影響が大きいことは言うまでもありません。労働基準法を遵守し、さらに地域に根ざしたビジネスと人権意識が息づくことが、日本社会の未来を展望させます。
 日本の労働環境を調べてみると、職業選択の自由、安全な職場環境はあるでしょうか?日本の管理職に占める女性の割合は12.8%です。過去3年に職場でパワハラを受けたことがある人は、32.5%。働いている人の65歳以上の割合は13%です。しょうがいのある人の法定雇用率を達成している会社は45.9%です。雇用されている人のうち非正規労働の割合は36.6%です。世界の都市人口のうち劣悪な大気汚染の影響を受けている人は、91%です。ビジネスと人権の問題は、外国人だけでなく日本人の問題でもあるのですね。ちなみに性的指向に基づく雇用差別を禁止している国は、世界で67カ国(193カ国中)です。5
 多文化教育の視点から人権を守るには、偏見や差別が自分自身の心の中に、無意識のうちに存在することに気づくことが必要だと思っています。

5.サバイバル・ストラテジーの獲得-キャリア形成とアイデンティティー

心理学者アドラー(Adler 1975:pp.12-23)の「カルチャーショックと適応モデル」では、人が越境を果たし新奇性に満ちた時期を通過し新しい社会に適応し困難に直面する時期は、移住後2~3年目としていました。6 アドラーは、移住者の心理的変容を「位相」(phase)という言葉で分析しています。
 第1段階は、国境を越えて異文化圏を体験するのが「接触の位相」です。異文化接触に好奇心をそそられ、興奮を覚え感動する段階です。やがて周囲は特別扱いしなくなり、生活に困難を覚える時期がきて、ホームシックや自信喪失、無気力になる第2段階の「崩壊の位相」がきます。企業は、外国人には、悩みを打ち明ける親密な関係性をもった友人が身近に少ないことに配慮する必要があるでしょう。いまではスマートフォンで母国にSOSを発している人も少なくありません。SNSの情報発信は人権意識にも影響を与えています。第3段階は、主体性を取り戻そうと努力する「再統合の位相」で、重要な段階です。励ましあうことが心を支えます。第4段階は、自文化と異文化の差異と共通点に気づき、両者の間の異同を正当と認め、落ち着きを取り戻す「自律の位相」です。第5段階の「独立の位相」では、文化の差異や共通点の評価に新たな意味づけもでき、キャリア形成から自己実現に向かうことが可能になるのです。複数の国に拠点を置いて回路を創出する選択肢もあります。第5段階、第6段階、第7段階と移住先を増やし、母国と往復するトランスナショナルな選択肢もあります。「定住」そして「永住」の展望は、実質的市民権の獲得に繋がっています。
 私は、長年、来日後の苦労の末、日本語習得を果たし起業に成功した難民のキャリア形成に寄り添ってきました。彼らは相互の信頼関係の蓄積を元にサバイバル・ストラテジーを伸ばしているのです。
 企業が、外国人への心理的安定に着目し、職場に学び語り合う「安心の居場所」 を創造することが大切です。技能実習生と話すと、アドラーが「人は第2の文化について適切な理解、それを操作する技能を感じ取り、自分の能力として身につけることができる」と指摘したように、周囲との円滑な人間関係を保ち、異文化である日本文化について自分なりの理解ができ自信を持つと、心理的安定感が出てくることが読み取れます。この人格特性は、環境に対する柔軟な対応力と適切な対応技術、つまりサバイバル・ストラテジーを伸ばしているのですね。

6.外国人雇用の成功と実質的市民権

多くの大学が、紛争地域から留学生を受入れる努力を継続していることは将来を考えるととても意義深いです。同様に日本の企業が、移民・難民の雇用を推進し、円滑な人間関係を構築することは、企業の発展にもCSRにも通じる社会貢献です。
 つまり外国人雇用の成功の秘訣は、「自律の位相」で、困難を克服し、越境社会でサバイバルできる能力を獲得できる点に着目することです。「独立の位相」は、実質的市民権と繋がっています。「独立の位相」を得て自律・自立した人は、移住先で洗練された対話的能動性をもち、スマートフォンとSNSを駆使して、情報を発信し、責任感をもって人権尊重が当たり前の地域社会を創造することに貢献しています。
 5段階の位相から、別の場所に越境し、移民の適応モデルがグローバルな地域社会に息づくこともあります。一方、企業と地域社会は、移民を受容し包摂して鍛えられ、人権意識を高めています。ホスト社会は移住者との遭遇を契機に協働・共創しようとする多文化共創能力を創出してきたのです。
 外国人労働者の受入れについては、とかく人口減少と労働力不足という視座からのみ議論されがちでした。非熟練と熟練労働者と家族移民、ケア労働、妊娠と出産など若い世代の「共創・協働」の接触領域に光をあててみませんか。一人ひとりの個性に着目し、異論・反論も自由に語れる雰囲気が重要です。なぜなら職場が「安心の居場所」であることが、「人権尊重」の基礎となるからです。留学生・技能実習生・ 特定技能人材・難民が社会貢献に活躍する内発性に光を当てると、2030年までの「持続可能な開発目標」SDGs(Sustainable Development Goals)の達成に意欲が湧いてきます。

7.未来に向けて 共創経営のビジョンを発信しましょう!

生育老病死に寄り添うライフサイクルの視座は、省庁横断的で総合的な外国人の人権を守る省庁の設立や基本法の必要性を感じさせます。日本が自信をもって内発的な共創社会へのビジョンを国内外に発信することが、さらなる共創経営の知恵を生み出す原動力になります。コロナ禍で医療施設、中小零細企業、福祉施設、学校や地域コミュニティが、いかにして危機を乗り越えたかを丹念に記録し、写真を撮ることは貴重な史料となります。多くの技能実習生が、たとえ母国の民主主義・民主化が危機的状況に襲われても、人権に根ざす「安全の居場所」と多文化共創の信頼関係を実感し、キャリア形成と自己実現に尽力している姿を見てきました。
 人類の移動と共創史を世代間サイクルに寄り添って紐解くことは、人間の叡智を学び、地球温暖化問題など共通課題に内発的に取り組むことに帰結します。「気づき愛」の連鎖が、対話力に説得力をもたらし、地球の分断を防ぐことになるのではないでしょうか。

1 国際連合人権理事会:ビジネスと人権に関する指導原則
https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/
2 外務省:ビジネスと人権に関する行動計画(2020年~2025年)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008862.html
3 参考文献としてチョウチョウソーさんのコラムをご高覧ください。
http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/115323.php
4 加藤丈太郎さんのコラムもぜひ。
http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/115221.php
5 公益財団法人人権教育啓発推進センター:「数字で見る はたらく私と人権」
http://www.jinken.or.jp/archives/19403
6 Adler.P.S (1975)”The Transitional Experience: an Alternative View of Culture Shock”. Journal of Humanistic Psychology.15(4) pp.12-23.

参考 令和3年度経済産業省中小企業庁委託事業「企業におけるCSR・人権担当者向け実践講座」6「外国人雇用の道を拓く人権尊重の共創経営の知恵」講師:川村千鶴子(大東文化大学名誉教授)万城目正雄(東海大学教養学部准教授)
http://www.jinken.or.jp/information/jigyou/event/csr-kouza

著者プロフィール
川村千鶴子:大東文化大学名誉教授。博士(学術。総合研究大学院大学)。多文化社会研究会理事長(1989~)。特定非営利活動法人太平洋協力機構 顧問。東アジア経営学会国際連合産業部会。
『ともに働く 協働共創の価値~なぜライフサイクルの視座が必要なのか~』
http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/publish/docs/DJweb_55_soc_02.pdf(英訳版)

経歴:大東文化大学環境創造学部教授、異文化間教育学会。国立民族学博物館研究員、日本移民政策学会理事、新宿区多文化共生まちづくり会議部会長、日本島嶼学会理事、日本オーラル・ヒストリー学会理事等を歴任。

~~~~~~多文化研HAIKU会~~~~~~

~今月の一句~

  キンモクセイ 香り豊かに 気づき愛    
                                  川村 千鶴子

たがいに気づき合うことを、作者は「気づき愛」という造語にしています。異なる文化を持つ人々と接したとき、違いに気づくことはつきものです。この気づきを「気づき愛」に変えることが、金木犀の花の香のような、かぐわしさをもたらすに違いありません。写真に撮って俳句を創る「写真俳句」をお奨めします。芭蕉や蕪村の俳句とはひと味違った俳句が生まれます。